文章テクニック10「会話に動きをつける」

前回の「言い間違い」でセリフに取り込むことで、リアリティを持たせることができるというテクニックを紹介しました。今回は単調な会話にならないよう「動きをつける」について説明します。

例文1
タロウ「今日、お昼どこで食べた?」
ハナコ「うん、カフェのランチ」
タロウ「何食べたの?」
ハナコ「スパゲティ」
タロウ「何ソース?」
ハナコ「ミートソース」
タロウ「よかった。今日の夕食ナポリタンなんだ」

わざとらしいほど単調な会話になりましたが、これに近い会話を初心者の書き手がしてしまっているのをよく見かけます。
これが単調な理由はタロウの質問に、ハナコが答える、一問一答式になっているからです。
これに近い単調な会話が次のようなものです。

例文2
タロウ「今日、お昼どこで食べた?」
ハナコ「カフェのランチだよ。なんで?」
タロウ「うん、ちょっと。何食べたの?」
ハナコ「スパゲティだよ。なんで?」
タロウ「いいから。何ソース?」
ハナコ「ミートソース」
タロウ「よかった。今日の夕食、ナポリタンなんだ」

ここではハナコは答えるだけではなく、質問返しをしています。しかしタロウは「うん、ちょっと」「いいから」と曖昧な返答をしつつ、次の質問をしています。
これは一問一答式が二重になっただけで、本質的には何も変わっていません。

キャッチボールで喩えれば、お互いの取りやすいところに投げあっている動きのないキャッチボールです。
これらを改善して「会話に動きをつける」には、このシーンが何を伝えるシーンなのかと考えることです。

たとえば「タロウが一生懸命、作った夕食がハナコのお昼とかぶってないか心配している」シーンだとします。
それだと、次のようになります。

例文3
タロウ「もしかしてだけど、お昼にカフェなんか行ってないよね?」
ハナコ「行ったよ」
タロウ「えええ、ま、まさか、スパゲティなんて食べてないよね?」
ハナコ「食べたよ」
タロウ「うわあああああ」
  と、耳を塞ぐタロウ。
ハナコ「ど、どうしたの?」
タロウ「……何ソース?」
ハナコ「ミートソース」
タオル「はあ、よかった。今日の夕食ナポリタンなんだ」

わかりやすくするため、オーバーリアクションなキャラにしました。
一問一頭式の会話は変えていませんが「心配するタロウ」という軸ができると印象が変わります。
ハナコが投げるボールに、右往左往しているようで動きがつきました。

また、ハナコの「どうしたの?」という質問に対して「いいから」というのを無視して「何ソース?」と訊き返しています。
単調なキャッチボール会話をしているときは、不要な相槌が入ってきます。
作者が一人で会話を書いているときは、いちいち相槌を打たせてしまいますが、役者が声に出して演じてみるといかに邪魔かがわかるはずです。
不要な相槌は、単調な会話を見分けるときの目安にもなります。

例文4
タロウ「今日、お昼どこで食べた?」
ハナコ「カフェだよ。ミートスパゲティ」
タロウ「え、スパゲティ……」
ハナコ「うん。どうしたの?」
タロウ「いや、実は……」
  と、タロウ、作ったばかりのナポリタンを見せる。
タオル「ごめん、被っちゃった」
ハナコ「いいじゃん、ミートとナポリタンなら別物だよ!」

こんな会話であれば、このシーンの意義が全く違います。
その場合、タロウとハナコの「どこで?」「何を?」の段取りは不要です。
タロウの「どこで食べた?」という質問に対して、ハナコは「カフェだよ。ミートスパゲティ」という聞かれてもいない情報まで話します。
これによって会話のスピードが増して、シーンの本題にすぐに入れます。
(ちなみに微妙なセンスですが、タロウ「お昼どこで食べた?」ではなく「今日、何食べた?」から入ると、やや一問一頭感がでてしまうのでズラしました)

物語の会話では、質問にいちいち答えたり、相槌を打ったりしない方が動きがついてテンポが生まれます。
一問一答式の会話はやめましょう。

緋片イルカ 2019/06/17

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