【サブテクストとは?】
サブテクストという言葉をご存じない方もいるかもしれないので、まずはそこから説明していきます。
サブは「下位」といった意味、テクストは「文章」。subtextの訳では「言外の意味」と言われます。
例をあげた方が早いでしょう。
A「結婚しよう」
B「……はい」
このセリフのテクストとしての意味は「Aという人物が結婚を申し込み、Bという人物が了承した」というだけです。
では、この会話はどんな人物で、どんな場所で交わされた会話でしょうか? 想像してみて下さい。
例えば夜景の見えるレストランなどオシャレな場所で、婚約指輪を差しだす若い男、嬉しいそうにはにかんでうなずく女。
こんなシーンが浮かんだ方は、申し訳ありませんが、物語的なセンスのない方かもしれません。
もちろん、ぜんぜんオシャレでないカップルがラストシーンにあえてベタなシーンにもってきたとか、冒頭でありがちなシーンとミスリードして……といった物語的必然で、このシーンがあるのであれば問題ありません。
しかし、これをいいシーンやクライマックスとしてイメージされたのならセンスが古いといえます=80年代のトレンディドラマです。
本題に戻ってサブテクストについてです。
この会話が、レストランでの男女であれば、テクスト通りこの二人は結婚するでしょう。
では次の場合はどうでしょう?
幼稚園児A「結婚しよう」
幼稚園児B「……はい」
おままごとのワンシーンかもしれません。結婚という意味がわかっているとは思えませんし、そもそも法律的にも不可能です。
セリフは同じテクストですが、言外の意味が全く違います。これがサブテクストです。
【サブテクストを変えてみる】
もう少し、別の例を考えてみましょう。
老人A「結婚しようか」
老人B「……はい」
同じレストランのシーンでも、老人であれば、全く違った意味合いが出てきます。若い頃に苦労があって一緒になれなかった二人かもしれませんし、老い先短いだけではなく、どちらかは病気を抱えて死期を前にしているかもしれません。そうであればBの人物の「はい」の前にある「……」には一瞬の迷いがあるように感じられます。幼稚園児の「……」であれば、「(ケッコン? なんだろう? よくわからないけど)……はい」かもしれません。明らかにサブテクストが違います。
もっとサブテクストを変えてみます。
死刑囚A「結婚しようか」
死刑囚B「……ああ」
場所は拘置所の中です。そして男同士です。この二人にどんな背景があるかの想像はお任せしますが、サブテクストに違いがあることは明らかです。
【人間は普段、本当のことは言葉にしない】
人間はペルソナをつけて生活しています。会社では会社の言葉使いがあるし、家庭では家庭の、SNSではまた違ったキャラになるかもしれません。どれが本当の自分であるかは、もはや自分自身でもわからないかもしれません。そもそも自分というのは一つとは限りません。
そんな生活の中で、自分の発言に、責任と正確さをもって言葉を使う人はいないと言っても過言ではないでしょう。
はっきりと主張する文化の欧米人より、日本人はよりタテマエを喋るでしょう。だからハリウッド映画的な葛藤シーンが、日本人がやるとやや大げさに見えます。
本音を話さないのは物語のキャラクターも同じです。
だから、感情を論理的にセリフで話すキャラクターは嘘っぽく見えます。人間らしくないのです。
セリフの本質はテクストではなく「サブテクスト」を描くことなのです。
追いつめられたキャラクター達は、本音を吐きます。その言葉にキャラクター自身も驚くかもしれません。そのキャラクターアークを描くことが、作者の描くことです。
緋片イルカ 2019/07/27
次回は……「サブテクストを描写から考える」
●参考→三幕構成の本を紹介2『サブテキストで書く脚本術 (映画の行間には何が潜んでいるのか) 』リンダ・シーガー (著), 坪野 圭介 (翻訳)
構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
三幕構成の書籍についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)
文学(テーマ)についてはこちら→文学を考える1【文学とエンタメの違い】
キャラクター論についてはこちら→キャラクター概論1「キャラクターの構成要素」
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