映画『ワンダー 君は太陽』:時間経過とサブキャラクターの扱い(三幕構成分析#32)

「リモート分析会とは?」

スリーポインツ

『ワンダー 君は太陽』

プロットアーク
PP1:ヴィア(姉)のシークエンスが始まる(26分)
MP:ヴィアがキスする(57分)
PP2:犬のデイジーが死(74分)

キャラクターアーク(オギー)
PP1:オギー、学校へ行く(14分)
MP:ジャックと仲良くなる(40分)
PP2:ジャスティンのイジメ(ロッカーに写真)(86分)

分析・感想

主人公の「トリーチャーコリンズ症候群」という題材は一度あつかってみたいと思ったことがあったので興味を惹かれた作品でした。リモート分析会として、ベタなわかりやすい作品(分析しやすい作品)だろうと思っていましたが、予告から想像していたより変則的な構成をしていたので驚きました。途中からビートがほとんど機能していないため、見ていてだんだん白けてきます。「ハートウォーミング」とでもキャッチコピーをつけたくなるような、いい人ばかりがでてくる優しい話ですが、映画としてはやや偽善的にも見えてしまいます。その原因はいくつもありますが、構成の面からいうと、主人公であるはずのオギーのキャラクターアークを描ききれていないことが大きくあります。

まず、オギーのアクト2=非日常=学校生活での明確なWANTがありません。暗黙に「友達をつくる」ということだとすると、ジャックと仲良くなっていく段階(バトル)が重要になってきます。しかし理科のテスト中にカンニングさせるきっかけの後はモンタージュシーンで、仲良くなる過程が省かれ、あっという間にMPに到達してしまいます。重要なシーンを飛ばしすぎなのです(これと同じミスをしている日本の有名アニメ映画があります)。基準と比べても20分も早いタイミングです。あるいは「学校に通い続けること」というWANTだったとしたら、行きたくなくなるようなイジメを受けて、それに負けずに登校するというMPも考えられました。この映画のラストシーンは修了式なので、このWANTであれば「一年間、学校に通ったこと」に意味が出せます。何をテーマにして、どう描くかは作者が決めることですが、WANTがないことは構成として弱点です。

ジャックと仲良くなることでMPに到達したとします。すぐに状況は悪化します(フォール)。ハロウィンで聞いたジャックの悪口を真に受けてケンカを始めるのです。これはセオリー通りです。冷戦状態が続いたあと、理科の課題でペアを組むという小さな変化のあと、ゲーム上で仲直りします。このシーンは「マインクラフト」の画面上で仲直りするよりも、面と向かって話した方がいいシーンになったのは言うまでもありません。ジャックが、オギーの顔をどれだけ見つめるかという演出が意味も持つでしょう(相手をよく知りたかったら「よく見ること」というモノローグがあるぐらいですから)。理科の発表会の手作り暗室カメラもオリジナリティこそありますが、ストーリーの流れをくみとりきれていません。フリがないともいえます。トップシーンからフっている宇宙飛行士や、後半で月を眺めて「いつか行きたい」と言っているようなキャラクターに合わせた作品にするこで、もっと効果的なシーンに出来たはずです(そもそも、発表のために制作する過程などをもっとシーンとして描くことで、観客が二人の友情に感情移入されていくのですが、それすらない)。理科の作品が評価されることをMPに持ってくることも可能でした。その構成では「フォール」はイジメっこのジュリアンがイジメを開始することになりますが、実際ではPP2です。

アクト3は作品のクライマックスであり、テーマを決定づけるようなイベントを持ってくるべきですが、この映画で起きていることはどうでしょう?

オギーにとって一番の敵役であったイジメっ子のジュリアンは校長に怒られてあっさりと転校してしまい、野外学習にも参加しません。野外学習では、上級生にからまれ、ちょっとした揉み合いがあっただけであっさりと終わります。そして修了式で表彰。ビッグバトルが機能していません。

改めて、この作品の、主人公オギーのキャラクターアークを、ログライン的に言うならば「初めて学校へ行った少年が、友達をつくり、ケンカもするが、一年間を修了した」程度の話です。これが陳腐に聞こえるかもしれませんがログラインに面白さを求めるのはまちがいです。ログラインはこの程度で、いいのです。友達をつくる過程や、ケンカをして仲直りする心情などがシーンとして丁寧に描かれているかどうかが作品の「描写」です。ログラインが悪いのではなく、描写がないことが問題なのです。

では、メインストーリーであるオギーのシーンがスカスカの代わりに、どんなシーンに時間を使っているのでしょう?

アクト2に入るタイミングで、姉のヴィアのストーリーが始まっているため、オジーよりもヴィアの話にすら見えてきます。姉と弟の2本のストーリーであるとも言えなくないかもしれません。ミランダという友人と疎遠になっていることは、オジーに「学校では誰もが経験すること」と言っていることにつながります。弟の病気は遺伝子の運のようなもので、もしかしたら自分が病気になっていたかもしれないというセリフも、対比として効いています。サブプロットの定番のラブストーリーも入ってきています。2人を主人公として、全体をコントラストプロットとして描く構成もできたと思います。病気の弟ばかりが大切にされていて寂しさを感じるキャラクターも良いと思います。姉と弟の対比で描くストーリーは良い映画になったと思いますが、意識的に構成されていないのでテーマはうっすらとしか見えてきません。

この作品では姉のヴィアにくわえて「ジャック」「ミランダ」といった友人たちの章が入ります。蛇足です。ストーリーの軸となるキャラクターが増えると群像劇的な展開になっていきます。きちんとした群像劇にするのであれば、それぞれの視点によってテーマが浮かび上がってくるように構成するべきです。父親や母親のパートなども入るかもしれません。それぞれのエピソードをきちんと処理もするべきです。そうでなければ群像にする意味がないのです。ただ人物が多く出てきてごちゃごちゃしているのは群像劇ではありません。ジャック、ミランダの章はモノローグばかりで、サブプロットとして充分に処理できる程度の情報しかありません。章立てするほどではないのです。ミランダの家族問題などは最後まで無視されています(演劇の後などで母親とのもうワンシーンがあるだけで印象が変わります)。

どんな構成にするかは、作者のテーマやメッセージ次第です。何が正しいということはありません。

この作品で描きたかったことは、ラストの修了式での校長先生のセリフを受けるなら「周りの人間がオギーによって動かされた」という視点ではないかと思います。この場合、オギーをブレのない芯の強いキャラクターとして描き、周りが影響を受けて変化していくという描き方も可能でした。メシアプロットと呼んでいる型で、子どもの難病や、死期の近い主人公との相性がいいストーリータイプです。過去のこういったセオリーを避けて、明るく描こうとしたのだとしても、周りのキャラクターはオジーとの関わりの中で、つまり具体的なシーンを経て変化していくべきでした。そういったシーンが少なく、モノローグなど都合よく動きすぎています。これがチープさとも、キャラクターの偽善さとも見えます。

ハロウィン、クリスマス、野外授業など季節イベントを起こすことで時間だけは進めていますが、主人公の成長が見えません。書き慣れていない作者がテーマから逃げるために(無意識的でしょうが)、よくやってしまうのが「物語内の時間を飛ばして、事件が起きているように見せること」と「登場人物を増やして、脇役の説明、心情に時間を使うこと」です。この映画では両方をやってしまっています。主人公の成長が見えないのは、作者自身が伝えたいテーマが掘り下げられていないからかもしれません。

「トリーチャーコリンズ症候群の少年」という題材を前にして、安易に親切な世界を創りすぎているのです。病気の子どもを受け入れる社会というのは、とても「いい話」ではあるのですが、イジメっこのジュリアンが転校していなくなることで解決という展開は、異分子の排除という差別と同じ構造をもっています。このことに作り手や観客が気づかないとしたら怖いものすら感じます。これだけサブキャラキャラクターのモノローグを入れているなら、ジュリアンの章がなぜないのでしょう? あったとしたら、彼はどんな言葉を語ったでしょう? それは物語の深みにつながっていたはずです。

演技に関しては、母親役ジュリア・ロバーツの演技の巧さは言うまでもなく、父親のオーウェン・ウィルソンがとてもいい味を出していると感じました。演技は脚本にひっぱられてしまうので、主役のオギー少年は仕方ないとしても、友人になるジャック役のノア・ジュープはうまいと思いました。犬も良い演技をしていました。

緋片イルカ 2021/01/01

次回はこちら→ 三幕構成リモート分析会(#2)『女と男の観覧車』

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『映画『ワンダー 君は太陽』:時間経過とサブキャラクターの扱い(三幕構成分析#32)』へのコメント

  1. アバター 名前:匿名 投稿日:2021/01/03(日) 00:26:09 ID:44e6729e9 返信

    はじめまして。リモート分析会、ひっそり参加させていただきました。
    自分も、前半の、オギーが初登校から差別を受けても負けずにがんばって、ジャックとオギーが仲良くなる40分あたりまではおもしろく見ていたのですがその後の展開になんとなく失速を感じていました。その理由が的確に説明されていてスッキリしました。より効果的な描写の提案もとても参考になりました。
    次回の分析会も楽しみにしております!

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  2. アバター 名前:匿名 投稿日:2021/01/03(日) 00:51:05 ID:232bfbd0f 返信

    リモート分析会ひっそりと参加させていただきました。いつもイルカさんの的確な分析が非常に参考になります。次回も楽しみにしております!

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  3. 緋片 イルカ 名前:緋片 イルカ 投稿日:2021/01/03(日) 02:17:06 ID:4bbe01225 返信

    コメントありがとうございます。いつも一人でひっそり寂しく分析しているので、参加くださってる方がいただけで嬉しく感じました! よかったら感想や分析なんかもお聞かせいただけると嬉しいです。分析に答えはないので、討論などをするつもりはありませんのでご自由に発言ください。創作などにご興味ありましたら、どんな答えになろうとも、分析してみること自体が、ものすごく力になりますのでオススメです。

    未見の映画を題材に選んでいるので、当たり外れが出てしまいますが、次の作品は僕の好きな監督・脚本家の一人であるウディ・アレンなので学べることがあると思います。多作で、ムラっけのある監督なので面白いかどうかは保証できませんが、脚本に安定感はあると、僕も期待しております。

    また、とりあげて欲しい作品なども、ありましたら、コメントくださいませ。(イルカ)

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    • アバター 名前:匿名 投稿日:2021/01/03(日) 17:05:55 ID:44e6729e9 返信

      返信ありがとうございます!ミスして2回同じようなコメントを送ってしまいました。すみません。

      自分も「ワンダー」を鑑賞しながらメモを取りました。イルカさんがスリーポインツとしてあげているところの「キャラクターアーク」と同じように、オギーに注目して3幕分析をしていたのですが、MPがどこか迷いました。イルカさんの分析を読んだ後だと、ジャックとの友情が結ばれるMPまでの描写があっさりしていたせいもあったのかと感じました。

      3幕目についてですが、同じくジュリアンの描かれ方には疑問を抱きました。ジュリアンの雑な退場に続く野外学習のシーンはなくてもよかったくらいでした。ジャックと仲直りした後の展開は都合良すぎかつ冗長だったのでカットして理科研究大会の表彰で終わりにしたほうがまとまってたのではと思いました。

      あと、マイクラで仲直りするシーンは現代ならではで小学生っぽくてかわいかったですが、反面ジャックに軽薄な印象がついてしまいました。「顔を見て」という演出の方が映画全体としてより効果的だったのは確かだと思います。

      個人的にお父さんのキャラクターにはずっと好感がもてました。この俳優さんはどこかで見た気がしましたがミッドナイトインパリの主役だったんですね。この映画は以前イルカさんがラジオで紹介されていましたよね。同じくウディアレン監督の作品だったんですね。

      リクエストは特にありませんが、アマゾンプライムにある作品だと鑑賞しやすいです。が、イルカさん的名脚本映画など紹介していただけると楽しいです!

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      • 緋片 イルカ 名前:緋片 イルカ 投稿日:2021/01/03(日) 18:17:51 ID:4bbe01225 返信

        返信ありがとうございます。

        2幕に入ってからのWANTが達成された地点がMPになっていることは多いので、今回のような「WANTが曖昧な映画」はMPがとりづらいことが多いです。

        別の解釈としては「理科で表彰されるところ」を頂点としてMPにする捉え方もありますが、その後に起きているイベントがビートとして機能しなくなってしまうので、その解釈はあまり意味がないなと思います。

        そもそも分析はすべて解釈なので自由でいいと思っていますが、その「捉え方が創作や推敲に役立つかどうか」が大事だと僕は考えています。ハリウッドで有名なアナリストの間でも、プロットポイントの位置が違ったりします(ただし、それぞれに説得力があったりなかったりします)。

        この映画には原作があるようなので、サブキャラクターの章とか、野外学習のシーンなどは原作を引きずっているのかもしれないとは思います。原作ものはモノローグが多くなる傾向もあります。表現方法がちがうのだから、映画に合わせてガラッと書き換えることも脚本家の仕事だとは思いますが、原作者がうるさい場合などは、仕方がないこともあるのかもしれませんね。映画は大人数が関わるので、現場では人知れるぬ苦労がたくさんあるんだろうなとは思いますが……。

        お父さん役のオーウェン・ウィルソン、いい味がありますよね。ちょっと三枚目なところが魅力的です。ラジオも聞いてくださったようで嬉しく思います。

        課題作品は個人的な興味だけで選んでいます。「今度、観てみようかな~」と思ったまま、なかなか観れていないものを、分析会という口実で観るきっかけにしてるだけだったりします。未見なのでオススメ映画という訳でもないんです(アマゾンプライムは今後も活用するつもりです)。

        勉強という主旨なら、過去の有名作品などで、かなりいいものもたくさんあるんですが、(これも個人的ですが)むかしに勉強会を開いていたことがあって、その頃にかなり有名作品はやってしまっているので、もう一度、やろうという気があまり起きないのです……。

        そんな訳で、ご参加いただける方のご要望はなるべく取り入れていきたいと思っておりますので、何かあればお申し付けください。

        ゆるーくつづけていきますので、お時間あれば、またご参加下さいませ。(イルカ)

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