映画『籠の中の乙女』(三幕構成分析#120)

※この分析は「ライターズルーム」メンバーによるものです。

※あらすじはリンク先でご覧下さい。
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【ログライン】

家の中しか知らなかった長女は、クリスティーナと出会い、クリスティーナの持っていたビデオテープ(映画)を見たことで、外の世界への興味を強め、家から出ようとする話。

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「カセットテープ」カセットテープが映る。そこから聞こえてくるのは、母親の音声。単語の意味を解説しているが、全くのデタラメ。嘘の内容を話している。

CC「主人公のセットアップ」:「カセットテープを聞く長男・長女・次女。熱湯の遊び」お風呂場で、カセットテープを聞いている。兄は上半身裸(多分、下着のみ)、長女・次女も下着。カセットテープから流れるのは海は革張りのアームチェアの事など、デタラメの内容。その後、熱湯の遊びを次女が提案。普通ならしないような遊びなので、この3人の異様さが表現されている。
「ジャンルのセットアップ」

Catalyst「カタリスト」:「クリスティーナが来る」クリスティーナと話す長女。初めての訪問者が嬉しい様子。クリスティーナのしているカチューシャが気になる。クリスティーナは夜に光り、自分の手作りだと伝える。

Debate「ディベート」:「クリスティーナにカチューシャをあげると言われる」クリスティーナの二度目の訪問。部屋に来たクリスティーナにカチューシャをあげると言われる。ただし、その代わりになる何かをくれと条件を出される。

Death「デス」:「クリスティーナの要求に従う」カチューシャの代わりになるもの(消しゴム付き鉛筆やメジャー)を提示するが断られる。下着を脱いだクリスティーナに股を舐めるよう要求される。それに従う長女。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「妹に肩を舐めさせる」カチューシャを手に入れた長女はそれを使って妹に肩を舐めさせる。自分に従わせることを覚えた長女。

Battle「バトル」:「兄弟が外で死んだと聞かされる」いまいち設定がよく分からなかった部分だが(この映画の父親母親もこの設定に疲れていた模様)兄弟が塀の外にいるという事を聞かされていたらしい。兄が猫を虐待したことで、外にいるネコに兄弟がやられたということを聞かされ、訓練(撃退するための犬の鳴き真似)をする。

Pinch1「ピンチ1」:「」

MP「ミッドポイント」:「ビデオテープ(映画)を手に入れる」部屋に来たクリスティーナ。ヘアジェルをあげると言われるが、断る。嘘つきとクリスティーナを罵り、父親へ告げ口すると脅す。ヘアジェルじゃなくてもっと面白いものが欲しいとバッグの中身を漁り、ビデオテープを手に入れる。

Fall start「フォール」:「夜中に起きているのが見つかる」夜中に映画を見る長女。父親が起きてきてギリギリのところで見つかるのを回避するが、映画鑑賞後、映画の内容を真似ることが増えたことで、結局、ビデオテープが父親にバレて、殴られる。クリスティーナもひどい目に合う。

Pinch2「ピンチ2」:「」

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「兄とのsex」クリスティーナがダメになったので、代わりを探す父親は姉妹を兄の性欲処理にあてがう。目をつぶった状態で2人の体を触らせて選ばせる。結局、長女が選ばれ、兄とsexすることになる。事後、映画のセリフを真似る長女。

BBビッグバトル:「結婚記念日でのダンス・犬歯を折る」父母の結婚記念日にダンスを披露する。映画フラッシュダンスを真似たダンスを披露し、途中で母親に止められる。また、その後、自分の犬歯をダンベルで叩き、無理やり抜く。血だらけになる洗面所と家を出て、トランクに入る長女。

image2「ファイナルイメージ」:「暗闇」最初のイメージと関連性があるわけではない。ただ、長女だけでなく家族のその後を表しているような印象を受けた。

エピローグ:

【感想】

好き2点 映画4点 脚本3点
トラウマレベルの気持ち悪さを感じた映画だった。サイコ系好きな人以外にオススメは出来ない。観たあとに嘔吐したくなるというか…とにかく、変な感じの残る映画…。ここまで気持ち悪くさせるのは凄い。猫虐待シーンは精神衛生上、早送りしました。(あそこだけはモザイクかかってようが無理)犬のしつけ教室の人のセリフと口の動きだけで会話する夫婦が印象的でした。個人的に残念だったのは母親。なんだか中途半端。丁度、父親と子どもの間にいるとしたらあんなものなのかもしれないが、もう少し父親側に寄って狂気染みていても良かったと思う。あと、最後は賛否分かれる終わり方だと感じた。

(米俵、2023.2.6)

映画『籠の中の乙女』全体(ショット1) ※一般非公開記事

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『映画『籠の中の乙女』(三幕構成分析#120)』へのコメント

  1. 名前:千田 投稿日:2023/02/10(金) 23:01:25 ID:12eed9f63 返信

    米俵さん、本作お勧めする際にもっとワーニングすべきでしたね、、すみません笑。ここまで生理的、倫理的に反するだろう描写を容赦なく全部詰め込んだ作品も少ないですよね。嘔吐を引き起こすほど、というのは本当にそうだと思いますし、そこがテーマを表現するための監督の意図なのだろうなとは思います。「コントロールされることで、嘔吐を催すほど生理的に破綻した感覚をもつ人格形成がされ得るかもしれない。その感覚は是正されることがあるのか」と。異常なコントロールが引き起こす弊害を表す強烈なやり方ですよね、徹底的に全シーン気持ち悪いですもんね(しかし、そこに少しだけ感じ取れるコメディ的な間とかでギリギリ見れるようにはしてるバランス感覚もすごい気がしています)。そのユニークな振り切り方で、カンヌの「ある視点賞」などでも評価されているのだろうなと思います。「好き」2点 「作品」5点 「脚本」4点

  2. 名前:川尻佳司 投稿日:2023/02/14(火) 02:53:32 ID:85cf06eb3 返信

    「好き」2点 「作品」4点 「脚本」3点

    トラウマになるような気持ち悪さとは大変でしたね。
    そのような作品は無理に見ることはないと思いました。

    犬のトレーナーのセリフは父親の家族に対する考え方を表してるんでしょうか。
    子どもたちにバレないよう、口の動きだけで喧嘩する夫婦はユニークで、この奇妙な家族をよく表していましたね。
    母親も突然双子と犬を産むっていうんですから、なかなかだとは思いました笑。

    ラストシーンは残された家族を暗示しているようとおっしゃるように、決して家から出ることはできないというバッドエンドを表しているかもしれませんね。

    テーマが家の異常さだったので米俵さんの課題作のテーマと共通することで選ばれたのでしょう。似たテーマで「愛がこわれる時」は「難題に直面した凡人」という異なったストーリータイプで比較になり面白いですね。

    私はなぜこの家が外界と遮断することになったのか理由を説明しないことや、家の異常さが強調されることに、徹底した家への不信感、気味の悪さを感じました。この徹底さはユニークだと思います。そして、同時に物足りなさを感じました。私の中に家を信じている視点もあるからです。アメリカ文化を批判する、前近代的な人たちからはこの映画はどう見えるのでしょうか。私も自由な文化に価値を感じ、生きる人間ですが、同時に不自由な中に価値を認めている矛盾を抱えています。そういう意味でも面白い映画でした。

    以下、私のビートの解釈です。

    Subject:異常な家のルールを守ることを通した姉の自立、成長
    Arc:組織のなかで(家族制度のなかで)
    Engine:ドラマ(成長)、スリラー
    Pain/Love:暴力の痛み、家族愛

    Image1:「カセットプレーヤー、熱湯我慢ゲーム」出鱈目な内容の単語の解説テープと兄弟の熱湯の我慢ゲームとはこの後明らかになっていく異常な家のルールやそれにどこまで耐えれるかということだろうか。

    Catalyst:「クリスティーナのカチューシャ」父親の工場の警備員であるクリスティーナが息子の性欲処理の仕事のためにやってくる。8分たったところで、「ブランド」の長女はクリスティーナのカチューシャに光る石に興味を示す。

    Debate:「クリスティーナと家族のビデオ撮影」クリスティーナは仕事を終え、この家の家族と仲良くビデオ撮影をする。姉妹は彼女に憧れの目を持っているようにも見える。私達からすれば異常な関係に見えるが、父親の選んだ相手はどうやらうまくやったようだ。

    CC:「シールは52枚」外界と隔絶するためのこの家の異常な様子が明らかになる。両親と息子、長女、次女の3人の子どもたちがいて、身なりを整え、家族そろって食事をし、娯楽にホームビデオをそろってみる、裕福で幸せな家庭に見えるが、もうだいぶ大人に見える子どもたちはシールを与えられて評価され、娯楽は自由ではない。そして、いずれも名前を呼び合うことがない、名前がないのだ。「塩」を「お電話」と呼び、言葉は出鱈目を教えられていて、学校に行かされていないどころか、外界と交渉できないようにされている。家の塀の外にはこの家族の「兄弟」がいるらしく、息子は洗車ではりあったり、石を投げ合っているが、外に人がいる気配はない。そして彼は度を超えた行動の戒めとして洗口液を含むという罰を受ける。この家は外界を汚らわしいと考える父親の信念によって徹底的に隔絶されている。

    Death:「力のあるものが奪う」20分たったところで、父親の出勤を見送る家族。長女はちょうど上空を飛ぶ旅客機を欲しがり、落ちれば自分のものなのにと言う。母親はすかさず長女の頬をはたき、「力のあるものが奪う」と戒める。家の門が閉まっていく。長女はこのままでは「静止=死」。この家のルールに従うのか、それとも自分に忠実に生きるのかがこの作品のテーマだ。

    PP1:「クリスティーナが次の訪問の約束する」父親が工場に出勤し、ゲートが開く。うまくやった警備員のクリスティーナが出てきて、次の訪問を約束する。家のルールの世界に外の世界の人間が入り「混乱の世界」の第2幕に入る。

    Battle:「目隠し競争、飛行機のおもちゃ、猫」異常な家のルールの中で外の世界への興味から「選択」、対立する場面だ。この作品の「お楽しみ」でもある。30分たったところで、兄弟たちの目隠しゲームが始まる。長女が勝利し、賞品なのか、お菓子を生垣の外にいるらしい「兄弟」に向かって投げる。
    39分たって、外の世界を暗示する飛行機のおもちゃで遊ぶ息子に、奪われたと怒った長女が切りつけ、おもちゃを外へ捨て、母親に殴られる。
    息子は外から入ってきた猫を発見し、とっさに殺してしまう。父親は猫は危険な生物で外の「兄弟」は殺されてしまったことにする。息子と長女は落胆する。

    Pinch1:「クリスティーナからカチューシャをもらう」34分たったところで、息子とのセックスに不満を抱えたクリスティーナはカチューシャを与える代わりに股を舐めるよう長女に要求する。クリスティーナには力がある。長女はカチューシャの代わりに次女に肩を舐めさせて、MPに向かう。

    MP:「飛行機のおもちゃを獲得する」43分たったところで、父親は猫が危険な生き物だと家族に説明し、犬の鳴き声を訓練させて、「危険度がアップ」する。母親は家を守るために双子と犬を産むことを提案し、子どもたちは部屋やおもちゃをシェアすることを迫られ、ゲームが始まる。子どもたちの成績は良くなかったが、51分たったところで、長女は競争に勝って飛行機のおもちゃを手に入れる。「まやかしの勝利」だ。次女が長女を舐めるが、代わりにものは与えずに舐めさせる。長女には力がある。そして、父親の爪を切る長女。依然父親の方が力がある。

    Pinch2:「ビデオテープを手に入れる」長女は交換条件にクリスティーナのヘアジェルを断り、父親へ告げ口すると脅して、ビデオテープを手に入れる。今や長女の方に力があるのだ。ピンチ1の対でPP2に向かう。

    Fall:「夜中に起きているのが見つかる」夜中に映画を見る長女に父親が気づいて、見つかる。何とかビデオテープを隠したが、時間の問題だろう。

    PP2(AisL):「クリスティーナの解雇」長女が映画ジョーズを真似て息子を攻撃する、度を超えたことで、ビデオテープが父親にバレて、長女はテープで叩かれる。そして、クリスティーナもビデオデッキで打ちのめされる。

    DN:「長女が性欲処理を担う」クリスティーナがいなくなったため、闇夜に息子は次女に迫り、騒ぎを起す。両親は息子に選ばせて長女に性欲処理をさせる。長女は映画のセリフのような言葉で怒りを表す。彼女は「犠牲」となったのだ。

    BB:「結婚記念日のダンス、犬歯を取る」両親の結婚記念日に姉妹はダンスをする。長女は自分の犬歯が抜けそうだと次女に告げるが、当然永久歯であろう犬歯はしっかりとついている。長女は家のルールを守って、外の世界へ出るつもりなのだ。長女の映画フラッシュダンスを真似たダンスが途中で止められた後、彼女は犬歯をダンベルで叩き取り。父親の車のトランクに隠れる。気づいた父親は必死で外を探し回り、家族は犬の鳴き声をまねるが、見つかるはずもない。翌朝、父親は出勤のため車を出す。ジンテーゼだ。

    image2:「車のトランク」息子と次女がキスして寝る。家は何も変わらない。翌朝、父親が出勤し、工場に車が止まる。長女がいるであろう車のトランクが映されて映画は終わる。彼女は外に出られたのか、やはり「犠牲」になったのだろうか。