映画『ルックバック』(三幕構成分析#226)

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※あらすじはリンク先でご覧下さい。

※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。

概要

ライターズルーム内の分析会として開催。
主催:太郎
参加者:米俵、さいの、しののめ
分析提出:雨森

BS_lookback

◆フック・テーマ
 ・さいの:漫画家の青春物語/友情と別れ
 ・しののめ:同じ夢を目指した友との別れ、喪失
 ・太郎:少女二人が夢を追う/出会いと別れ、運命、可能性

◆問題点
 ・原作そのまますぎてアニメ化の必要性を感じない。
 ・作風がアニメにあまり向いてない。(藤本タツキの作風は実写映画的)
 ・京アニ事件をモチーフにしていることを前面に出していないが、内容にガッツリ関わっているという扱い方が少し卑怯。事件ありきのレベルの低い評価で持ち上げられることに繋がる。
 ・バトル(ビートとしての)を音楽でごまかしている。

◆いい点
 ・京本が死ぬ展開が唐突にならないように、構成を変えていた。
 ・絵が奇麗で、原作のタッチが崩れていない。
 ・個性的な原作を、王道の脚本構成にうまく落とし込めている。
 ・子供のころと大人になってからで見える景色が対比されているのが良い。

◆その他(疑問など)
 ・観客はパラレルワールドのシーンをどう捉えれば良いのか?
 ・京本が死んだときの藤野の後悔の仕方が、自分の影響力を過大評価しているようで、傲慢な気がする。

◆作品の補足や予備知識、類似作品など
ラプンツェルはプロットアークとキャラクターアークがズレているらしい。
https://irukauma.site/review/analysis/22172/
https://irukauma.site/iruka/story/loglineandplot/9424/

さいの

【ログライン】

藤野は小学校の学年新聞に4コマ漫画を掲載する人気者で、自分の才能に自信を持っていたが、不登校の同級生・京本の画力に衝撃を受ける。二人は出会い、共同で漫画制作を開始する。漫画賞を受賞するなど順調に創作活動を続けるが、高校卒業後、京本は美大進学を選び、漫画家として連載デビューする藤野とは別々の道を歩む。藤野が売れっ子漫画家となった頃、京本が通り魔事件の犠牲となり、藤野は深い悲しみと後悔から漫画を描けなくなる。やがて京本と過ごした日々を振り返り、再びペンを取る決意をする。

【フック/テーマ】漫画家の青春物語/友情と別れ

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「夜中に漫画を描く藤野の背中」無心で漫画を描き続ける小学生時代の藤野の背中。作中で度々象徴的に扱われる「背中」のイメージから始まる。

GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「学年新聞の四コマ漫画」学年新聞の四コマ漫画を描く藤野の姿を通して、漫画を題材とした青春物語であることがセットアップされる。

Premise/CQ「プレミス」/「セントラル・クエスチョン」:「なぜ漫画を描き続けるのか」

want「主人公のセットアップ」:「学年新聞が配られる」四コマ漫画を絶賛する友人達を前に、得意気になる藤野。努力して漫画を描いていることは隠して、当然のものとして賛辞を受け取る。主人公の藤野は、人間らしい自尊心を持ちつつ、漫画を描いて賞賛されることを生きがいにしている人物であることがセットアップされる。

Catalyst「カタリスト」:「四コマ漫画の枠を一つ京本に譲る」先生から、不登校の京本に学年新聞の四コマ漫画の枠を一つ譲っていいか聞かれる藤野。不登校のような軟弱者に漫画が描けますかねと揶揄しつつ承諾するが、京本の四コマ漫画の画力に驚愕する。

Debate「ディベート」:「京本の漫画を見て、漫画を描くのを辞める」京本の画力に追いつくために本格的な絵の勉強を続けてきた藤野。しかし四コマ漫画の京本の絵を見て、努力しても追いつけないことを悟り、漫画を描くのを辞めてしまう。漫画を描いてばかりだった生活を辞めて、友達と遊んだり、道場で姉と空手を習ったりする。

Death「デス」:「雨中、小躍りしながら帰る」京本が自分のことを「藤野先生」と呼び尊敬したことを知り、内心嬉しくてたまらない藤野。京本の前ではそっけなく振る舞うが、別れた後の帰り道で喜びを爆発させる。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「再び漫画を描き始める」京本の家から帰ったその足で、藤野は再び漫画を描き始める。

F&G「ファン&ゲーム」:「出版社に漫画を持ち込む」「コンクールで入賞する」「賞金で街へ遊びに」「読み切り掲載を続ける」中学に上がった藤野は、京本と一緒に漫画を描き始める。コンクールで入賞したり、読み切り連載を続けたりと漫画家として結果を残すだけでなく、賞金を使って二人で街へ遊びに出たりして、京本と一緒にいることの楽しさを味わう。

Battle「バトル」:「ファン&ゲーム」と同じ。二人で漫画を描き、賞や連載を勝ち取っていく様子が、バトルでもある。

Pinch1/Sub1「ピンチ1」/「サブ1」:なし。

MP「ミッドポイント」:「京本から美大進学を打ち明けられる」高校卒業後の連載デビューが決まった矢先、京本から卒業後は美大に進学したい旨を告げられる。今まで通り自分についてくれば上手くいくと話す藤野に、京本は藤野の力を借りず自分だけの力で生きてみたいと話す。二人は別々の道へと進む。

Reward「リワード」:「売れっ子漫画家としての忙しい日々」京本と離れ一人で連載を始めた藤野。休む間もなく漫画を描き続け、売れっ子漫画家となる。

Fall start「フォール」:「通り魔事件のニュース」 京本が通う美大に通り魔が侵入したニュースを知る藤野。直後、京本の訃報を知る。

Pinch2/Sub2「ピンチ2」/「サブ2」:なし。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「破り捨てた一コマ目が京本の部屋に入る」自分が漫画を描いていなければ、京本が死ぬことも無かったと後悔する藤野。京本の部屋の前で、小学校の卒業式の日に自分が描いた四コマ漫画を見つけ、破り捨てる。「出てこないで」と書かれた一コマ目が、ドアの下の隙間から京本の部屋の中に入る。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:なし。

BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「卒業式の日の京本が『出てこないで』のコマを受け取る」「出てこないで」のコマを受け取ったのは小学校の卒業式の日の京本。藤野が卒業証書を届けにくるが、部屋から出ずにいることで、あの日、藤野と出会わなかった世界の京本の日々が始まる。

Twist「ツイスト」:なし。

Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「京本の描いた四コマ漫画が届く」藤野と出会わずに美大に進学した京本。通り魔に襲われるが、藤野に空手キックで助けてもらう。かつて学年新聞に四コマ漫画を載せていた藤野であることに気づいて、初めて言葉を交わす。取っておいた学年新聞のスクラップを久しぶりに眺め、藤野との再会を四コマ漫画に描く。
 京本の書いた四コマ漫画が、部屋の前で悲しみに暮れていた藤野の元に届く。藤野は京本と一緒に漫画を書いていた日々を振り返り、前を向く。

Epilog「エピローグ」:「仕事部屋に戻り漫画を描き始める」京本の家から仕事部屋に戻った藤野は、京本の書いた四コマ漫画を窓に貼り、再び漫画を描き始める。

Image2「ファイナルイメージ」:「漫画を描き続ける藤野の背中」仕事部屋で黙々と漫画を描き続ける藤野の背中。オープニングイメージのリフレイン。

【作品コンセプトや魅力】

人気漫画のアニメ化作品。漫画家の青春物語という個性的な特徴がありながら、努力と才能、友情と別れといった普遍的なテーマの魅力も存分に味わうことができる。短編だが、脚本構成上の無駄な要素がほとんどなく、濃密な視聴体験をもたらす。
 藤野と京本の二人の友情ストーリーの様相は中盤以降、京本の訃報によって一変し、京本の死から藤野が再起するまでの過程に焦点が変わる。京本の「幽霊」との不思議なやり取りによって表現されるその様子が、見終わった観客にどこか祝祭的な余韻を与える。

【問題点と改善案】(ツイストアイデア)

 個性的な作品内容を、王道のヒーローズジャーニーの脚本構成にうまく落とし込んでいて、無駄がなく非常に完成度が高い。問題点は特にない。
 実際の事件を題材にしているだけあって作中での取り上げ方に賛否あることは把握しているが、原作は漫画でありアニメ化による変更点も特に無いため、内容的な批評についてはここでは控える。

【感想】

通り魔事件について、原作漫画ではかなり終盤に置かれていたのに対し、本作ではミッドポイントに置いたことで映像作品として格段に見やすくなっていたように思う。これによって観客としても、京本の死や事件の内容を受け入れた上で最後、藤野が再起するまでに焦点を合わせることのできる構成になっていると思った。その他の脚本構成も、かなり要所を踏まえたものになっていて、原作漫画を映像脚本化する際のお手本になる一作と感じた。
「好き」3「作品」4「脚本」4

(さいの、2025.5.22)

しののめ

【ログライン】

自作漫画を褒められることが喜びだった藤野は、不登校の同級生・京本と合作で漫画を描き始め、やがて連載を勝ち取るが、進路を違えた京本を通り魔事件で失う。悲しみつつも京本との思い出を胸に、一人再び筆を執る。

【フック/テーマ】漫画家を目指す少女コンビ/同じ夢を目指した友との別れ、喪失

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「自室で一人、4コマ漫画を描いている藤野の背中」夜、小学生の藤野が真剣に机へ向かっている様子。

GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「学年新聞の4コマ漫画」藤野の描いていたものが学年新聞用の4コマ漫画であり、それが教室内で話題になっていることから、漫画を題材にした青春ものであることが示されている。

Premise/CQ「プレミス」/「セントラル・クエスチョン」:「漫画を描き続ける理由」藤野は漫画を描き続けることができるのか。なぜ漫画を描くのか。

want「主人公のセットアップ」:「自作漫画にプライドを持っている小学生」自作漫画を同級生たちに褒められ、鼻高々の藤野。漫画を賞賛されることに大きな喜びを感じている人物であることが示される。しかし「漫画家なれるじゃん」との煽てには、「どうだろうね」、「つまんなそう」と含みを見せる。

Catalyst「カタリスト」:「京本に4コマの枠を譲るよう打診される」教師に呼び出され、学年新聞の4コマ漫画掲載枠を一つ、京本に譲るよう打診される。
見知らぬ不登校児童に描けるのかと揶揄するも、後日、京本の圧倒的な画力に衝撃を受ける。

Debate「ディベート」:「絵を猛勉強するも、再び京本の画力に圧倒され、描くことを辞める」悔しさのあまり一心不乱に絵を学び、猛練習するが、6年になって京本の絵と自分の絵を見比べ、描くことを辞める。ないがしろにしていた友達や家族との交流を優先する。

Death「デス」:「自分を絶賛する京本に対し、漫画賞に出す話を考えていると嘘を吐く」引きこもりの京本に出会い、かつての4コマ漫画を絶賛されたことから、調子に乗って嘘を吐く(引き返せなくなる)。雨の中、喜びのあまり帰路で一人盛大にスキップ。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「京本と共に、合作漫画を描き始めている」学校から帰宅した藤野が自室の扉を開けると、京本が合作漫画の執筆作業中である。

F&G「ファン&ゲーム」:「編集部に持ち込み」、「漫画賞で準入選」、「京本と外出して遊ぶ」合作漫画に取り組み結果を出していく過程および、藤野と京本の関係性が深まっていく過程。

Battle「バトル」:「ファン&ゲーム」と同じ。

Pinch1/Sub1「ピンチ1」/「サブ1」:なし。

MP「ミッドポイント」:「漫画連載を勝ち取る」漫画賞での準入選などを経た二人は、遂に連載漫画の仕事を打診される。

Reward「リワード」:なし。

Fall start「フォール」:「京本から美大に進みたいと打ち明けられる」二人で連載を始めることはできないという流れに。口論となり、道を違える。

Pinch2/Sub2「ピンチ2」/「サブ2」:なし。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「京本死亡、連載休止」良いアシスタントが見つからず苦悩する藤野のもとに、京本死亡の知らせが届く。ショックで連載を休止する。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「京本が死んだのは自分のせいだと思い込む」京本の自室前で「自分が漫画を描いたせいで、外に出したせいで京本が死んだ」と極論に走り、自分を責める。自分が描いた4コマ漫画を破る。

BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「『出てこないで!!』のコマが京本の部屋に入る」藤野が京本を部屋から連れ出さなかった世界線(藤野の妄想)が始まる。京本がのちに自力で部屋を出て美大に進学し、通り魔事件に遭遇するまでが描かれる。

Twist「ツイスト」:「通り魔を撃退」突如藤野が現れ、空手キックで通り魔を撃退する。京本は殺されず、ここで初めて二人が出会う。

Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「自分のサインが書かれた京本の半纏を見る」京本を部屋から出した日に、せがまれてサインした京本の半纏を目にする。そこから現実で過ごした京本との日々が次々と映し出される。最後に京本の笑顔。泣いていた藤野は立ち上がり、明け方の雪道を帰っていく。

Epilog「エピローグ」:「職場に戻り、執筆を再開する」京本との思い出の品でもある4コマ用紙を職場の窓に貼り、再び漫画を描き始める。

Image2「ファイナルイメージ」:「職場で一人、連載漫画を執筆している藤野の背中」小学生からプロの漫画家へと成長し、自己承認欲求ではなく、京本への感情や京本との思い出を動機として漫画を描いている姿。

【作品コンセプトや魅力】

単に少女コンビが漫画家として成功する様子を主題にした作品ではなく、大切な存在の喪失、それでもなぜ描くのか、をテーマにした作品であると感じた。そのため漫画家として成功していく過程にはそこまで大きな障害はなく、特に前半はとんとん拍子に事が進んでいく。前半のバトルはどちらかというと「漫画家としての成長」ではなく、「京本と共に描く日々」に重点が置かれており、それがビックバトルの「描いたこと、及びこれからも描き続けることを肯定できるか」に繋がってくるように思う。

自己承認欲求から始まった「描く動機」が「相棒と夢を目指しているから」に変質し、相棒と道を違えても「プロになれたから」描き続ける。相棒を亡くし執筆を中断しても、「相棒との日々や思いがあるから」再び筆を執る。今作に対する原作者の執筆動機は実在の事件であると思われ、その点に関連した賛否はあり評価が難しい側面もあるが、「なんで描いたんだろう。描いても何も役に立たないのに」という台詞の答えが作品全体を通して示されているように思う。構成や描写にはほとんど過不足がなく、最低限の台詞やシーンで効果的に物語を展開している。意外性や感動、ユーモア、解釈の余地もあり、作品としての完成度が高いと感じた。

【問題点と改善案】(ツイストアイデア)

2幕前半のバトルが音楽とシーンのみで羅列され、藤野と京本の関係性構築描写が最低限すぎるかもしれない。無駄のない必要最低限の描写という意味では問題ないだろうが、ここをもう少し丁寧に描くことで、京本の死の衝撃や悲しみを強められる可能性はある。
(原作ではこうした描写から受ける印象や味わい深さを、読者の読む速度等によって調整できるため、あまり気にならなかったのかもしれない)

【感想】

王道の綺麗な三幕構成だが、ビッグバトルで視点が切り替わり、しかもそれがパラレルワールド的な世界線である点に特徴を感じた。ショックのあまり主人公が「私が京本を部屋から出したせいで京本が死んだ」という極論に走った後、すぐに「主人公が京本を部屋から出さなかった世界線」の話が始まるが、「どちらにせよ京本は自ら部屋を出て美大に進むし、同じ展開になるんだよ、未来は変わらないから罪悪感を抱く必要はないんだよ」という方向性で主人公の選択を肯定するかと思いきや、そうですら無い点にも意外性や容赦のなさを感じた。しかしそのように描くことで、それでも京本を部屋から出したことでしか得られなかった時間や経験の方を肯定しているように感じ取れた。突然藤野が現れて通り魔を撃退するのは若干突拍子のないご都合展開でもあるので、やはり藤野による妄想と解釈するのが妥当かもしれない。

原作初読時ほどの衝撃や感動がなく割とさらりと見れてしまったのは、展開を知っているから・前半のバトル描写が不足しているからという点に加え、原作者の作風やキャラクター造形がどちらかというと実写映画的であり、アニメ的な演出、盛り上げ方に向いていないからかも?と思った。

「好き」4「作品」3「脚本」3

(しののめ、2025.5.25)

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