「スティーブ・ジョブスのスピーチ①The first story is about connecting the dots. 」(三幕構成分析#8)

スピーチ全文+日本語訳

【三幕構成はスピーチにも使える】
三幕構成はストーリーの基本である。ストーリーとは相手に何かを伝えるときの基本でもある。
よってスピーチやプレゼンにもつながる。
アメリカにはスピーチライターという職業もあって三幕構成は応用されている。
ただし三幕構成の本質を理解していなければ、内容を3つの段落に分けただけで、小学生の国語で学ぶ段落構成と変わらない。

2005年にスティーブ・ジョブスがスタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチ。
最後の「Stay Hungry. Stay Foolish」(ハングリーであれ、愚かであれ)という言葉は聞いたことがある人も多いだろう。
この言葉だけ抜き出せば、どこかで聞いたことある格言にすぎないが、三幕構成にのせて語られることで、それは「名スピーチ」となったといえる。
ピクサーを創ったスティーブ・ジョブスが三幕構成を知らない訳がない。
そこで、スピーチの内容を三幕構成の視点から分析してみる。

【ストーリーとニュースの違い】
三幕構成はログラインに集約される。
「誰が、何して、どうなる」という一文である。

「誰が」=第一幕
「何して」=第二幕
「どうなる(どうなった)」=第三幕

これが三幕構成ストーリーの基本である。(ログラインについては「ログラインって何?」を参照してください)

ニュースはまず「何した」という事実を伝えるものである。
新聞記事の見出しやニュースでのテロップを思い出してほしい。
たとえばこのニュース記事を例として借りるなら、
「天皇陛下にトランプ氏「最初の国賓、光栄です」というのがタイトルである。

次にリード文といわれる短い要約。
「天皇、皇后両陛下は27日午前、皇居・宮殿の竹の間で、国賓のトランプ米大統領夫妻と会見された。天皇陛下が即位後、外国元首と会見されるのは初めてで、令和の皇室の国際親善が本格始動した。」

ここでは、
「天皇、皇后両陛下は」=「誰が」
「トランプ米大統領夫妻と会見された」=「何した」
であり、ここがログラインと構造上は同じである。

ちなみにニュースではメッセージ性はないので三幕はない。しいて言えばニュースを見た視聴者の感じるものが第三幕になる。
「殺人事件のニュース」を見て「許せない」とか「かわいそう」とか思ったりするのが第三幕=「どうなる(どうなった)」にあたる。
視聴者の感情を誘導しようとすればプロパガンダになるし、事実は変えず報道の仕方を工夫して誘導することはどのテレビ局もやっている。事実自体を変えてしまえばフェイクニュースである。

リード文、ログラインで興味を持てばニュースの本文を読むことになる。
ストーリーの本文とはもちろん、小説や映画の作品そのものを視聴することである。

スティーブ・ジョブスの「Stay Hungry. Stay Foolish」という言葉だけ聞いたことがあっても、それはメッセージだけに過ぎない。
ストーリーとしてメッセージが語られることによって、人は感動するのである。

【スピーチ原稿の分析】
では具体的にスピーチの内容を三幕構成で分析してみる。以下、翻訳には上記にリンクを貼ったサイトのものを使わせていただきました。

Today I want to tell you three stories from my life.
本日は自分が生きてきた経験から、3つの話をさせてください。

スピーチには3つの話があるので、まずは1つ目の話。

The first story is about connecting the dots.
まずは、点と点をつなげる、ということです。

この話の第一幕=「誰が」について細かく分析していく。

「主人公のセットアップ」
物語の三幕構成のテクニックには細かい構成要素として「ビート」というものがある。第一幕をさらに細かく分解したようなものである。(ビートについては「ビートって何?」を参照してください)
その「ビート」の中に「主人公のセットアップ」というものがある。ストーリーでいえば主人公の紹介。
ここでもスティーブ・ジョブス自信の生い立ちが語られている。

It started before I was born. My biological mother was a young, unwed college graduate student, and she decided to put me up for adoption. She felt very strongly that I should be adopted by college graduates, so everything was all set for me to be adopted at birth by a lawyer and his wife. Except that when I popped out they decided at the last minute that they really wanted a girl. So my parents, who were on a waiting list, got a call in the middle of the night asking: “We have an unexpected baby boy; do you want him?” They said: “Of course.” My biological mother later found out that my mother had never graduated from college and that my father had never graduated from high school. She refused to sign the final adoption papers. She only relented a few months later when my parents promised that I would someday go to college.
And 17 years later I did go to college.
私が生まれる前、生みの母は未婚の大学院生でした。母は決心し、私を養子に出すことにしたのです。母は私を産んだらぜひとも、だれかきちんと大学院を出た人に引き取ってほしいと考え、ある弁護士夫婦との養子縁組が決まったのです。ところが、この夫婦は間際になって女の子をほしいと言いだした。こうして育ての親となった私の両親のところに深夜、電話がかかってきたのです。「思いがけず、養子にできる男の子が生まれたのですが、引き取る気はありますか」と。両親は「もちろん」と答えた。生みの母は、後々、養子縁組の書類にサインするのを拒否したそうです。私の母は大卒ではないし、父に至っては高校も出ていないからです。実の母は、両親が僕を必ず大学に行かせると約束したため、数カ月後にようやくサインに応じたのです。
 そして17年後、私は本当に大学に通うことになった。

「カタリスト」
ストーリーで言えば最初の事件が起きるのが「カタリスト」。
スティーブ・ジョブスは大学に価値を見いだせなくなる。

But I naively chose a college that was almost as expensive as Stanford, and all of my working-class parents’ savings were being spent on my college tuition. After six months, I couldn’t see the value in it.
ところが、スタンフォード並みに学費が高い大学に入ってしまったばっかりに、労働者階級の両親は蓄えのすべてを学費に注ぎ込むことになってしまいました。そして半年後、僕はそこまで犠牲を払って大学に通う価値が見いだせなくなってしまったのです。

「ディベート」
ストーリーでは「カタリスト」のあと、悩みや迷いの時期を過ごすのが「ディベート」

I had no idea what I wanted to do with my life and no idea how college was going to help me figure it out. And here I was spending all of the money my parents had saved their entire life.
当時は人生で何をしたらいいのか分からなかったし、大学に通ってもやりたいことが見つかるとはとても思えなかった。私は、両親が一生かけて蓄えたお金をひたすら浪費しているだけでした。

「デス」
ストーリーでは悩みや迷いの末に追いつめられた地点が「デス」。このままでは「死んでしまう」と決断をする。(このビートは三幕構成の本質に関わるとても重要な要素です)

So I decided to drop out and trust that it would all work out OK. It was pretty scary at the time, but looking back it was one of the best decisions I ever made.
私は退学を決めました。何とかなると思ったのです。多少は迷いましたが、今振り返ると、自分が人生で下したもっとも正しい判断だったと思います。

「プロットポイント1(PP1)」
ストーリーでは決断の末、第二幕へと入っていきます。その通過点が「プロットポイント1」。
第二幕は「旅」や「非日常」といった表現もされ、それまでとは違った世界が開けていきます。

The minute I dropped out I could stop taking the required classes that didn’t interest me, and begin dropping in on the ones that looked interesting.
退学を決めたことで、興味もない授業を受ける必要がなくなった。そして、おもしろそうな授業に潜り込んだのです。

「バトル」
ストーリーでは第二幕に入った主人公は新しい環境の中で「試練」「経験」を積んでいきます。

It wasn’t all romantic. I didn’t have a dorm room, so I slept on the floor in friends’ rooms, I returned coke bottles for the 5 – deposits to buy food with, and I would walk the 7 miles across town every Sunday night to get one good meal a week at the Hare Krishna temple.
とはいえ、いい話ばかりではなかったです。私は寮の部屋もなく、友達の部屋の床の上で寝起きしました。食べ物を買うために、コカ・コーラの瓶を店に返し、5セントをかき集めたりもしました。温かい食べ物にありつこうと、毎週日曜日は7マイル先にあるクリシュナ寺院に徒歩で通ったものです。

「ピンチ1」
第二幕という「旅」や「非日常」の世界に飛びだした主人公は、以前は出会わなかったものに出会う。
ストーリーでは新しいキャラクターと出会ったりするが、スティーブ・ジョブスはカリグラフに出会った。

And much of what I stumbled into by following my curiosity and intuition turned out to be priceless later on. Let me give you one example:
Reed College at that time offered perhaps the best calligraphy instruction in the country. Throughout the campus every poster, every label on every drawer, was beautifully hand calligraphed. Because I had dropped out and didn’t have to take the normal classes, I decided to take a calligraphy class to learn how to do this. I learned about serif and san serif typefaces, about varying the amount of space between different letter combinations, about what makes great typography great. It was beautiful, historical, artistically subtle in a way that science can’t capture, and I found it fascinating.
自分の興味の赴くままに潜り込んだ講義で得た知識は、のちにかけがえがないものになりました。たとえば、リード大では当時、全米でおそらくもっとも優れたカリグラフの講義を受けることができたました。キャンパス中に貼られているポスターや棚のラベルは手書きの美しいカリグラフで彩られていたのです。退学を決めて必須の授業を受ける必要がなくなったので、カリグラフの講義で学ぼうと思えたのです。ひげ飾り文字を学び、文字を組み合わせた場合のスペースのあけ方も勉強しました。何がカリグラフを美しく見せる秘訣なのか会得しました。科学ではとらえきれない伝統的で芸術的な文字の世界のとりこになったのです。

「ミッドポイント」
第二幕の頂点である「ミッドポイント」では旅の終着点として、宝物を得ます。
スティーブ・ジョブスは「美しいフォントを持つ最初のコンピューターの誕生」させる。

None of this had even a hope of any practical application in my life. But ten years later, when we were designing the first Macintosh computer, it all came back to me. And we designed it all into the Mac. It was the first computer with beautiful typography. If I had never dropped in on that single course in college, the Mac would have never had multiple typefaces or proportionally spaced fonts. And since Windows just copied the Mac, it’s likely that no personal computer would have them. If I had never dropped out, I would have never dropped in on this calligraphy class, and personal computers might not have the wonderful typography that they do. Of course it was impossible to connect the dots looking forward when I was in college. But it was very, very clear looking backwards ten years later.
 もちろん当時は、これがいずれ何かの役に立つとは考えもしなかった。ところが10年後、最初のマッキントッシュを設計していたとき、カリグラフの知識が急によみがえってきたのです。そして、その知識をすべて、マックに注ぎ込みました。美しいフォントを持つ最初のコンピューターの誕生です。もし大学であの講義がなかったら、マックには多様なフォントや字間調整機能も入っていなかったでしょう。ウィンドウズはマックをコピーしただけなので、パソコンにこうした機能が盛り込まれることもなかったでしょう。もし私が退学を決心していなかったら、あのカリグラフの講義に潜り込むことはなかったし、パソコンが現在のようなすばらしいフォントを備えることもなかった。もちろん、当時は先々のために点と点をつなげる意識などありませんでした。しかし、いまふり返ると、将来役立つことを大学でしっかり学んでいたわけです。

その後、1つ目の話のまとめとしてメッセージが語られる。

Again, you can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future. You have to trust in something – your gut, destiny, life, karma, whatever. This approach has never let me down, and it has made all the difference in my life.
 繰り返しですが、将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。運命、カルマ…、何にせよ我々は何かを信じないとやっていけないのです。私はこのやり方で後悔したことはありません。むしろ、今になって大きな差をもたらしてくれたと思います。

1つ目の話はここで終わる。
昔話「シンデレラ」のようなハッピーエンドストーリーであれば、ここで終わって構わない。
「養子に出されて大学を辞めたジョブスという男は、カリグラフを学んで、マックを創って成功した」といったログラインとなる。

だが、2つめの話では、また別の話のようで、構成上は続いている。
このつづきは次回→三幕構成がっつり分析「スティーブ・ジョブスのスピーチ②My second story is about love and loss.」

ご意見、ご質問などありましたら下記のコメント欄かお問い合わせにどうぞ。
掲示板には「三幕構成について語ろう」もありますので、ご自由にご参加ください。

また三幕分析に基づく「イルカとウマの読書会」も定期的に開催しています。詳細はこちらから。ご興味ある方は、ご参加お待ちしております。

緋片イルカ2019/05/27

構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」

三幕構成の書籍についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)

三幕構成のビート分析実例はこちら→がっつり分析シリーズ

文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」

文学(テーマ)についてはこちら→文学を考える1【文学とエンタメの違い】

キャラクター論についてはこちら→キャラクター概論1「キャラクターの構成要素」

「物語論」すべてのリストはこちら

「書く気がおきない時の対処法」などの掲示板もありますので、あなたのご意見なども聞かせてください。

SNSシェア

フォローする