「シャア・アズナブル」(キャラクター分析#4)

【敵なのに人気のキャラクター】
ガンダムの人気キャラクター。赤い彗星の異名をもち、搭乗するロボット(モビルスーツ)も赤いものばかりで……

「認めたくないものだな、自分自身の若さ故の過ちというものを」
「戦いとは、いつも二手三手先を読んで行動するものだ」
「モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやる」
「坊やだからさ…」
などなど、アニメの中でのセリフも有名で

こんな本まで出てるほどです。
アニメでなければ、ちょっとイタイ人にも見えますが人気の高さが伺えます。

とはいえファーストといわれる一作目の『機動戦士ガンダム』ではあくまで敵役。主人公はアムロ・レイです(※アムロについては次回)。
シリーズを通して描かれているのは「戦争に巻き込まれた子供達の成長と変化のアーク」であり、その中心にいるのも視点もアムロです。
ライバル的な立ち位置ながら、悪の根元ではありません。
悪の根元はカンタゴニスト、シャアのようなライバルキャラをアンタゴニストと呼びます。
それらの説明も含めて、くわしく見ていきましょう。

【つよい、はやい、あたまいい】
まずはシャアというキャラクターの魅力について考えます。シャアは2つの大きな魅力をもっています。

ひとつは単純な「かっこよさ」。
これは、スポーツなどで超記録をみると、好き嫌いなどをこえて感動してしまうのと似ています。おそらく男の子ほど、そういうものに惹かれる傾向が強いと思いますが、なにかに飛び抜けた能力をもっているキャラクターはそれだけで魅力的なのです。

主人公のアムロが乗る「ガンダム」

は最新式のモビルスーツで「白い悪魔」と呼ばれて怖れられます(主人公が乗るロボットが悪魔と呼ばれる面白さがあります)。
その悪魔に挑むシャアは、主人公アムロから見れば強敵ですが、ジオン軍(敵側)からみればヒーローです。

主人公のアムロは操縦が下手で、性格も根暗で、かつ有利なモビルスーツにのっている。
敵でありながら、シャアの方に感情移入してしまうのはドラマツルギー(物語力学)から考えても当然ともいえます。

初期のガンダムには戦争に正義も悪もないというテーマがありますが、シャアが人気なのは、まさにこのテーマが物語で描かれている証にも見えます。

【英雄神話の機能】
シャアがもっているもう一つの魅力は「英雄の機能」です。
オットー・ランクの記事でも書いたとおり、主人公の要素の一つに、じつは血筋がいいというパターンがあります。
ご存知の方には言うまでもない話ですが、シャアは物語の敵役=ジオン共和国の創始者の息子なのです。つまり王家の血をひくのです。

ジオン共和国はザビ家にのっとられ独裁政治に陥っているという設定で、そのザビ家に復讐するという秘めたるWANTをもっています。

『機動戦士ガンダム』ではアムロ達の視点で描かれるのでシャアのすべては明かされません。だからこの作品においては主人公とは呼べませんが「戦争に巻き込まれた子供」という意味ではテーマとも合致します。もう一人の主人公とは呼べそうです。こういうキャラクターがアンタゴニストです。
これに対してザビ家のような悪の根元のように描かれるキャラクターがカンタゴニストです。

主人公とアンタゴニストは考え方の違いなどから、仲間ありませんが、目的が一致したときには協力関係になることもあります(『機動戦士Zガンダム』ではアムロとシャアが協力するシーンがあります)。

また、視点をシャアにもってきてしまえば『機動戦士ガンダム THE ORIGIN シャア・セイラ編 I 青い瞳のキャスバル』という作品が作れるように主人公たり得る要素をもっているのです。この作品は、たまたま人気がでたキャラクターのスピンオフ作品を作ったというのとはまるで違います。

【成長できない悲劇の英雄】
アムロとシャアが対決する映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』という作品の中では部下のパイロットに陰で「ロリコン」呼わりされるシーンがあります。シャアが少女のようなキャラクターをそばに置くことも含めてロリコンと解釈されたりもします(※少女=ニュータイプを兵士として使うというタテマエもありますが)。

このことについて少し掘り下げておきます。

さきほどの「英雄の機能」で有名な物語がオイディプスです。
オイディプスの父である王は「息子に殺される」という神託をうけてオイディプスを殺そうとしてます。しかし、めぐりめぐって成長したオイディプスは神託どおりに父である王を殺すという有名な神話です。この物語をうけてフロイトは、赤ん坊には母親を独占したいという欲求から父親を殺したいという潜在的な欲求があるという「エディプス・コンプレックス」言葉を生みました。

シャアもオイディプスと同じように王の血筋です。しかしシャアには「殺すべき父」が、すでにザビ家によって殺されています。そして、いつまでも「父親の影」をおって、ジオン共和国の再興をねがっているともいえるのです。物語論としては、いつまでも成長できない悲劇の英雄と呼べるかもしれません。

そんなシャアが最期(?)に何に気付いたのか?

そういう視点で『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を見直してみると、新しい発見があるかと思います。

【分類】
キャラクターロール:アンタゴニスト、主人公
キャラクタータイプ:父親を追い求めるオイディプス
キャラクターアーク:ネガティブなアーク
ストーリータイプ
プロットタイプ:

●作品紹介
古いアニメなので全く見たことないという方もいると思いますので、おすすめシリーズを紹介をしておきます。

アニメシリーズをまとめて劇場版としたものがあります。それでも3本ありますが。
劇場版 機動戦士ガンダム

その七年後を描いたのがZガンダム(ゼータガンダム)と呼ばれるシリーズでこれも劇場版3本になっています。
この作品ではアムロはほとんど登場せず、シャアがメインキャラとして登場します。ラストがアニメシリーズと変わっていたり賛否もある作品ですが、とりあえず繫ぎとして見るなら十分だと思います。
機動戦士Ζガンダム -星を継ぐ者-

再びアムロとシャアが対決するこの映画が、個人的にはクライマックスだと思います。
ある時期からのガンダムシリーズは美少年によるロボットアニメ化してしまったところがあって「戦争」を通して描く「人はわかりあうことはできるのか?」という本質的なテーマからは逸れてしまっています。この映画はそのテーマの1つの答えになっている作品だと思います。記事に書いたとおりラストでシャアがどうなるかが、その答えにもなっていると思います。ガンダムを知らない人には、この作品を見るために頑張って上の作品を見てもらいたいぐらいです。
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア

そして記事でも触れたシャアを主人公に据えたシリーズ。物語内の時間では前後しますが、作品は2015年の作品です。
機動戦士ガンダム THE ORIGIN シャア・セイラ編 I 青い瞳のキャスバル

ちなみにプライム会員なら上記の作品が見放題なので、一気見するならこちらがお得です。

緋片イルカ 2019/10/19

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