文学を考える12【1%に向けて書く】

ざっくりと考えて、日本人の人口を1億人とすると、テレビドラマで視聴率20%をとるには2000万人に見てもらう必要がある。
小説は100万部売れれば大ヒットと考えるとして、それは1億人の1%でしかない。

テレビは点けっぱなしにして、炊事をしながら見ることもできるかもしれないが、
本は自分で読み進めない限り進まないというハードルがある。
「見る」より「読む」ことの方が負担が大きい。

売上げだけを考えるなら、買ってさえくれれば読んでいないくても数字には入る。
しかし、それでも500円~2000円程度の出費をしてもらう必要がある。

流行っているという理由で買ってしまう人もいるだろうから、小説の内容に感動してている人は1%よりもっと少ないだろう。

感動した1人が2~3人にオススメする口コミ効果を考えると、100万人の1/3とか1/2として、0.5~0.3%で良い。
人口に換算すれば50万人~30万人。
それを、小説で感動させるべき人とする。
けっこうな人数だ。

これだけの人に500円~2000円程度の出費をしてもらい、読む時間を使ってもらうほどの価値が、その小説にあるのか?
この映画や食事や、家族や友達との時間と比べても、それでも、その小説は価値があるのか?

視点を変えてみる。
1人の人間が一生で出逢える人は何人ぐらいだろうか?

そもそもの個人差があるし、計算式で出すことは不可能だが、自分のスマホの電話帳やSNSの人数をみれば交流のある人の数はおおよそ出せる。
日頃からよく付き合っている人、たまに会う人、ほとんど会わない人などの身近さの差はあるにせよ、その中から100人選んで、そのうちの1人が面白いと言ってくれれば1%に相当する。

ただし、社交辞令の「面白い」ではいけない。
お金と時間を使ってくれて、さらに2~3人進めてくれるほどに「面白い」である。
実際に、サポートしてくれるかはともかく、その程度には感動してもらえるような小説でなくてはならない。

また、身近で出会う人の中から1人という数は、恋人や配偶者と同じだ。
つまりは、身近な人の中のたった1人に向けてラブレターを書くように書かれた物語は、周りの99人には価値がなくとも、その1人には何物にも代えられないものとなる。
もちろんラブは恋愛の意味には限定しない。家族でも友達でも、構わない。

「わたしはあなたを想っています」という気持ちで書くこと。

それこそが、いい小説の本質であり、同時にいい小説は結果的には売れるのである。
ただの宣伝が巧いだけで、話題になっても「想い」のない小説は、消費されて忘れ去られていく。

緋片イルカ2019/05/13

時代区分から考える → 【文学を考える6】

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