6つにわけた言動決定要素のうち、前回は「価値観」の二面性ということについて考えました。
その中で「変化としての二面性」という項目を設けましたが、これをより掘り下げると、キャラクターアークになります。
本質的にはビートによる構成と同じですが、キャラクターと構成を同調させる重要なポイントでもあるので、キャラクターの側面から改めて考えてみましょう。三幕構成の基礎を前提に話しますので、初心者の方は初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」からどうぞ。
【変化前の価値観はアクト1で提示】
三幕構成は要約すると「ある人物が、冒険・体験を経て、変化・成長する」といえます。ある人物を紹介するのがアクト1(第1幕)、冒険や非日常体験がアクト2、変化や成長を証明するのがアクト3となります。
価値観の変化を示す場合、アクト1の「主人公のセットアップ」で見せておくことが必要です。
悪い奴であれば悪いことをしているシーンを、いい奴なら善いことをしているシーンをしっかりと作り、そういう価値観をもった人間だと示しておきます。
一番わかりやすい例で、男女のラブプロットを例にあげると、メインキャラクターとなる男女は正反対の性格や価値観をもっていて「こいつだけは嫌」「こんな人と一緒になるぐらいならペットといる方がマシ」といった価値観をお互いもっています。
【アクト2を経て、変化する】
アクト2の非日常体験では、その正反対の男女が行動を共にすることになります。アクションストーリーであれば「二人で逃亡する」とか、現代的ストーリーであれば「プロジェクトのチームになる」とか、それ自体がストーリーのウリになるので例は無限にありますが、ともかく「行動を共にせざるを得ない状況に陥り」ます。
そして、その冒険やプロジェクトがおわったとき(ビートでいえば「オールイズロスト」)、二人は解放されます。もう行動を共にする必要はありません。
しかし、お互いがお互いを必要として、自らの意志で、二人は一緒になる。それがアクト3で、ハッピーエンドとなる。基本的なセオリーです。
【価値観の変化と感情の変化のちがい】
このセオリー通りの展開に、感動できる作品もあれば「ご都合だな~」と感じてしまう作品もあります。
その差は、変化の度合によります。表面的か、本質的かの違いとも言えます。
上の男女が「冒険」を経て、愛し合うだけの要素があったのかどうか?
そこが問題です。
アクション映画ではラブプロットはサブプロットに置かれるだけなので、吊橋効果として感情的に惹かれ合い、くっつけばそれでいいのです。
度合としては「こいつだけは嫌」と思ってたのが「もう少しだけ一緒にいてもいいかな」ぐらいの表面的な感情の変化でいいのです。映画の終わった一ヶ月後には別れていそうでも気になりません。
メインプロットのアクションの事件が解決していればハッピーエンドとなるからです。
しかしラブストーリーでは、ラブ自体がメインプロットであるので、そうはいきません。
キャラクター達の本質的な変化が描かれているかどうかによって、感動できるかどうかが変わります。
「こいつだけは嫌」というのが「この人と一緒にいたい」というほど、価値観のレベルから変化が起こらなくてはラブストーリーのハッピーエンドにはなりません。
【なぜ、変化したのか?】
変化するための過程、それこそが主人公に与えられる試練「バトル」となります。
「こいつだけは嫌」と思っていた主人公は「行動を共にせざるを得ない状況に陥り」、相手のことを「意外にいいやつだな」と気付いたり、「どうしてこんなに嫌がっていたのだろうか?」と自分と向き合ったりする過程です。
そして、相手を認める(※心理学的にも他者を受け入れるということは結局は自分を受け入れること。ユング的にいえばシャドウと向き合うことです)。
これは試練をこなして登っていった頂点「ミッドポイント」で起こります。
このキャラクターアークの本質的な意義(あるいは「ミッドポイント」の意義)がつかめているか、構成にとりこめているかが物語創作の胆でもあります。
三幕構成は流れにのせるだけで、細部をごまかせてしまう力強さをもっています。そういった構成の形式ばかりを説いている物語創作セオリー本もたくさんありますが、事実、上手く作るだけで何割かの観客は満足してくれます。
消費させるだけのエンタメ作品でではそれでも構わないのかもしれません。
これについては、作者の創作姿勢(作家性)によるものであるので、可否はありませんが、深い感動を起こすような物語ではキャラクターの本質的な変化が起きるように作られているという、違いがあることは事実です。
次回は……キャラクター概論11「主人公のWANTとNEEDについて」
緋片イルカ 2019/07/17
構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)
文学(テーマ)についてはこちら→文学を考える1【文学とエンタメの違い】
文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」
「三幕構成について語ろう」という掲示板もありますので、ご自由にご参加ください。