キャラクター概論39「言動決定要素⑥目的:ヒーローズジャーニーとWANTの変化」

これまで言動決定要素について順番に考えてきました。前回は変化しないキャラクター(=フラットなキャラクターアーク)で、物語全体のWANTとシーンにおけるWANTの違いを見てきました。今回はヒーローズジャーニーという考え方からWANTの変化をみていきます。

【神話的=心理が希薄】
前回、主人公が変化しない物語の例としてRPGゲームのような「魔王を倒す」という展開を考えました。
初期のドラゴンクエストのような主人公=プレイヤーとなっているもの(こういうゲームの主人公は喋らない)は、神話的といえます。
そこには精神的な成長や、主人公の感情などが見えません。

桃太郎のような昔話のキャラクターも同じです。
鬼退治に行くという目的はありますが、個人的な動機は見えません。
もしも、現代で桃太郎を映画にするとすれば、キャラクターとして、桃太郎のプライベートな設定が不可欠になります。

前回あげたアクション映画の例で「地球に危機的な状況が迫る」→「解決する」というようなものでも、よく出来た作品であれば「地球の危機を解決する」という外面的な変化(これをプロットアークと呼びます)とともに主人公自身の成長キャラクターアークを描かれています。

【魔王退治にヒーローズジャーニーを重ねてみる】
具体例で考えていきましょう。
前回もつかった魔王退治のプロットアークは以下です。

勇者は旅に出て、いくつかの試練を経て、魔王を退治して、世界に平和をもたらす。

この冒険に、勇者の感情を重ねていきます。括弧内はビートシートでどこにあたるかです。

父親のいない勇者は、辺境の村に住んでいる。いつか冒険に出たいと思っている(主人公のセットアップ)。

魔王が現れ、世界を危機が訪れる(プロットアークのカタリスト
賢者が勇者のいる街を訪れる(キャラクターアークのカタリスト)

賢者についていって冒険に出たいと思うが、育ての親である叔父が反対する(ディベート

魔王の手下がやってきて、村を滅ぼす。叔父が死んでしまう(デス

賢者とともに旅立つ(プロットポイント1

魔王を倒す力を得るため「試練」を乗り越えて成長していく(バトル)。
「平和」のために魔王を倒したいと思うようになる。賢者は倒せるかもしれないと思う。

魔王との対決(ミッドポイント
勝利するが、実は魔王は勇者の父親だったことを知る。

これはヒーローズジャーニーという考え方を重ねただけです。
お気づきだと思いますが、スターウォーズと全く同じ展開です。監督のジョージルーカスが、この型を使ったからです。
今回はダースベーターを魔王に変えただけです。賢者はオビワン、勇者がルークスカイウォーカーです。

ヒーローズジャーニーの勇者は「冒険に出たい」というWANTから、やがて「魔王を倒す」というWANTに変化しています。
以前に見たようにWANTの変化は感情の変化といえます。
桃太郎や神話では、主人公のセットアップが希薄なので、動機があいまいなことがありますが、ここでは主人公の性格や個性が伺えます。

「父親殺し」というモチーフは精神医学のフロイトで解釈すれば、エディプスコンプレックスの克服といえます。
その言葉にもなっているオイディプス王の物語を考えれば神話的モチーフでもあります。

けれど解釈的であることは否めません。
魔王が父親だったことに、勇者にとってどんな意味があるのでしょうか?
そこに「エディプスコンプレックスを克服した」という解釈はできても、勇者の感情を考えたときには、驚き以外はあまりないように思えます。
スターウォーズを見てみても、観客はルークと同じようにダースベーダーが父親だったことに驚きますが、それ以上の感情は引き起こしません。
ルークの感情や価値観、WANTは、父親を殺したことによって変化しているでしょうか?

ヒーローズジャーニーという型は、神話よりは感情的ではありますが、概念的で、本当のキャラクターアークと呼べるほどには変化していないのです。
次回は、より心理的な成長としてキャラクターアークを見ていきます。

次回……

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緋片イルカ 2019/09/21

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