今回はストーリーサークルの「人物」について説明します。
その他の要素については以下のリンクからご覧ください。
「ストーリーサークルとは何か?」という概略は1「題材」にて説明しております。
ストーリーサークル目次
1「題材」(概略含む)
2「人物」
3「視点」
4「構成」(題材∩人物)
5「テーマ」(題材∩視点)
6「描写」(人物∩視点)
7「物語」(構成∩テーマ∩描写)
「人物」とは……
大きなサークルの1つ「人物」は、いわずもがな登場人物です。
ジャンルによっては「キャラクター」と言い替えても構いません。日本語でこう呼んだときには、ややつくりモノ感を感じます。
キャラクターという呼び方には、ヒーローのようにカッコイイ、幼児向けキャラのようにカワイイといった魅力を備えている反面、現実にはありえない誇張が含まれます。
実写映画でも、アクションやコメディの主人公は超人的なことが多いのでキャラクター寄りです。
「人物」を「人間」と言い替えることもできます。こう呼ぶときには、リアリティ、生々しさが込められます。
設定や専門職業などがリアルに描かれていればドキュメント的になりますし、感情面での悩みや願望がリアルであれば共感しやくすなります。
魅力的なキャラクターであれ、リアルな人間であれ、物語ではすべて「登場人物」です。
「キャラクター論」は「人間論」ともいえ、答えもなく、語り尽くすこともできません。
「人間とは何か?」といった何千年前から繰り返されてきた問いに行き着いてしまいます。
ここでは、あくまで「物語」にとって重要となる大きなポイントをいくつか挙げていきます。
主人公の人数について
ほとんどのストーリーでは主人公が1人に絞られます。
ラブストーリーであっても、男女の2人(もちろん同性でもかまいません)が主人公のように置かれますが、たいていはどちらか1人が主人公です。
「2人を主人公として描く場合」と「1人を主人公として、恋愛対象を相方として配置する場合」では構成が変わります。
一般の人はラブストーリーでは主演のカップルともに主人公に見えるかもしれませんが、物語構造上はどちらか1人が主人公になっているのです。(参考:「三幕構成と恋愛(プロットタイプとストーリータイプの違い)」)
バディものと呼ばれるタイプ(よくあるのは刑事二人組が捜査するもの)でも、メインとなる側が一人いて、そちらが主人公です。
主人公の人数が多くなると「コントラストプロット」→「群像劇」と構成の型が変化していきます。(※群像劇に見えても一人の主人公が配置されている構成が多くあります)。
また、構成の意義がわかっていない作者は「主人公」と「重要キャラクター」を区別できていないことがあります。
作者の思い入れが強かったり、観客・読者の人気があろうとも、物語上で「主人公の役割(ロール)」を果たしていなければ、あくまでサブキャラクターです。
また、一人称小説では語り手(あるいは書き手)がいて、別の人物について語るという構成があります。
この場合も「語り手」と「主人公」が同じとは限りません。
構成につながる上では主人公には欠かせない、いくつかの要素があり、それを担っているかどうかで区別できます。
(参考:『トイ・ストーリー4』から考えるキャラクターレベル5段階)
主人公の役割(ロール)は……
主人公の役割は構成用語でいえば「キャラクターアーク」を描くことです。いずれ説明するストーリーサークルの一要素「構成」にも関わります。
三幕構成の説明は、過去の記事でたくさん解説していますので、ここでは細かい部分は省きますが、ポイントは「変化・成長をする」という点です。
ほとんどの物語で、主人公は「変化」を迫られます。
その試練に打ち克って成長するか(ポジティブエンド)、変わりきれずに敗北します(ネガティブエンド)。
また「変化を迫られる」ということは、それ以前に、問題(プロブレム)を抱えていることもセオリーとしてもあります。
以上は、多くの物語論が説明しているところです。
物語上での、主人公の役割(ロール)とは「試練に直面し、ときに悩み、成長し、大きな試練に挑んで勝利(敗北)する」という英雄的行為を担うことです。
主演の役者がどうあれ、この役割を果たしているキャラクターが主人公なのです。この一連の変化を「キャラクターアーク」とも呼びます。
また、キャラクターアークはテーマにもつながります。そのことはストーリーサークル「テーマ」を説明する際に、改めて書きます。
どれも、あくまで基本的なセオリーであって、必ず従わなければいけないという訳ではありません。例外は無限にあります。
セオリーに拘りすぎて物語を狭めるのはもったいないことです。頭の固い人は分析したり、自分で考えるということをせず、受け売りでセオリーだけ弄んでいるのです(勉強不足ともいえますが)。
(参考:「三幕構成」シリーズ)
キャラクターの魅力について
主人公が魅力的であることは重要です。
主人公だけでなく、すべての登場人物が魅力であることが望ましいですが、主人公の魅力はとくに重要です。
「魅力とは何か?」
という問いは、そのまま「あなたはどんな人に惹かれますか?」という問いに言い替えられます。
世間の恋愛関係をみれば「人の好き・嫌い」は多種多様のように、誰のどこに魅力を感じるかは人それぞれです。
「誰かの隠れた魅力を見出すこと」が作者の「視点」でもあります。「視点」については次回の記事で説明します。
なので、ここでは、チープになりますが基本セオリーだけを紹介しておきます。
それは「羨望」「共感」「同情」という3つの要素です。
観客・読者が「自分にはこんなことできない!」と感じると「羨望」(観客<キャラ)
「自分にもこういうことあるよ~」と感じると「共感」(観客=キャラ)
「自分は、こんなこと経験したことない。何とかしてあげたい」と感じると「同情」(観客>キャラ)
となります。
主人公に「弱点」を持たせると共感しやすくなるというベタなセオリーがありますが、これはキャラの高さを下げて親近感を抱かせるテクニックです。
逆に「特技」を持たせるというのは、高さを上げるテクニックです。
ドラえもんの出来杉くんには弱点がないので魅力を感じませんが、のび太くんみたいな「同情」キャラが実は「あやとり」や「射撃」が得意なことに魅力を感じるのです。(参考:「野比のび太」(キャラクター分析#2))
キャラクターコア
キャラクターコアは僕の造語です。言葉どおり「キャラクターの核」あるいは動力源のようなものです(WANTにつながります)
一例を挙げるなら、
「人を不幸にしてでも、金を儲けることを信条にしている人物」がいたとして、その行動の原動力は「何か?」ということです。
「親も金持ちで、ただ甘やかされて育ってきたワガママ」というコアもありえますし、
「幼い頃に極貧を味わい、その恐怖や反動をもって育ってきた」というコアもありえます。
主人公とする場合、後者のように共感できるものにするのが一般的ですが、前者のワガママぼっちゃんが、試練を乗り越えて成長するというキャラクターアークをきちんと描ければドラマと魅力的です(小説スクールなどで安易なテクニックとして言われている「主人公はいいヤツにして、観客に共感してもらわなければいけない」といったセオリーは物語の一例に過ぎません)。
キャラクターに関して「こうあるべきだ」という考え方は、固定観念になりやすいので、なるべく自分のセンスを大事にするべきだと思います。
これは、次回に説明するストーリーサークル3つめの「視点」と重なり「描写」へとつながっていく部分でもあります。
「金持ち=嫌なヤツ」といった狭い人間観しか持っていない作者は、なかなか二面性をもったキャラクターを描けません。
精神論的に言われる「作者の人間的な深みが物語に出る」というのはこの辺りの要因によります。
けれど、ストーリーサークルをつかって、物語全体バランスを整えていけば、コントロールしていくこともできます。
キャラクターコアは主人公だけにあるものではありません。
サブキャラクターにもありますし、人間である作者にもあるのです。
心理学でいう「スキーマ」とか「ドライバー」といったものとも重なります。
そのコアを物語内で見せるかどうかは、キャラクターの役割(ロール)によります。
主人公ではたいてい説明されますが、サブキャラクターのコアは説明されないことが多くあります。
説明されないからといって、都合のいいキャラクターにしてはいけないのです。サブキャラクターにもサブキャラクターなりの人生や価値観、つまりキャラクターコアがあって行動させるべきなのです。
コアのないキャラクターは人形やロボットに過ぎません。
すべてのキャラクターはコアに動かされていると捉えることで、ブレがなくなり、変化(キャラクターアーク)も描きやすくなります。
(参考:キャラクターコア)
いくつか、キャラクターに関して重要なポイントを説明しました。
細かいポイントは「キャラクター論」シリーズの記事を参照ください。
次回はストーリーサークル「視点」について説明していこうと思います。→ ストーリーサークル3「視点」(文学#36)
緋片イルカ 2020/12/06
2020/12/10加筆・修正