「野比のび太」(キャラクター分析#2)

【『ドラえもん』の主人公】
前回のアンパンマン同様、『ドラえもん』ついて知らない日本人はいないと思います。『ドラえもん』の主人公です。タイトルになっているキャラが主人公とは限りません。物語の中心になっているキャラクターが主人公です。だから『ドラえもん』の主人公はのび太くんなのです。
そもそも、のび太くんが「ダメ」だからこそ未来からドラえもんがやってきたのだし、各回のストーリーも、のび太くんがいじめられてドラえもんにすがりつくことや、楽をしたいという思いつきから道具をせがむところから始まります。
また、通常アニメ版と映画版との違いも考えていきます。ちなみに映画版ではよく「ジャイアンがいい奴になる」と言われますが、その要因も補足します。

【のび太くんの特徴】
勉強ができない、怠け者、ねぼすけ、ずる賢い、不器用、スケベ……ダメなやつの要素をたくさん持っています。
キャラクターにおいてダメな要素は読者・観客の共感に影響します。このことは「出来杉くん」が主人公だったらと想像してみるとわかると思います。藤子・F・不二雄の『キテレツ大百科』では主人公のキテレツは発明をする優秀な主人公ですが、文庫で2巻分しか続きませんでした。アニメ版では「コロ助」のキャラを立てることで人気を博しました(※原作ではコロ助は1話しかでてきません)。

心理的な弱点のないキャラクターは完璧すぎて近寄りがたいものがあるのです。

のび太くんにも特技があります。あやとりと射撃の腕だけは天才的なのです。これは設定上の長所であり、何でも構いません。あやとりが折り紙でもいいし、射撃が剣術でもストーリー上の意義は変わりません。
重要なのはキャラクターとしての核(キャラクターコア)になる「優しさ」です。

これは30分の通常アニメ版では描かれないことがほとんどですが、映画版では主人公としてキャラクターアークの中心になっています。

成長する物語・しない物語
『ドラえもん』のキャラクターは役割がはっきりしています。いじめっ子のジャイアン、いじわるなスネ夫、ヒロインのしずかちゃん、いつでも味方のドラえもん。
30分の通常アニメ版では、展開はシンプルでストーリーの中核はドラえもんの出す道具です。ストーリータイプでいえば「魔法のランプ」になります。
のび太くんが道具を使って、ジャイアンやスネ夫に一泡吹かせたりしますが、最後は失敗して終わります。
1話完結型のストーリーでは主人公は成長しません。例えば、のび太くんが道具によって勉強ができるようになって終わった場合、次の回では優秀なのび太くんになってしまうからです。

一方、映画版では「起きる事件」が大きいため、ドラえもんの手にも負えない自体になってきます。
ジャイアンやスネ夫は弱気になりますが、のび太くんは「優しさ」から初志貫徹しようとします。たいていは映画版にだけ登場するサブキャラクターが困っていて、そのキャラを助けるために頑張ろうとするのです。それに動かされて、仲間達も頑張ろうとします。これはキャラクターアークでいえばフラットなアークで、のび太のブレない意志に、周りが変化していることになります。

作者の藤子・F・不二雄は通常版と長編をしっかり描き分けていますが、近年の映画ではジャイアンが最初からいい奴であったりして、アークが描ききれていないものが見受けられます。物語の中盤で変化しなくてはいけないものが最初から変化した状態(いい奴)で始まってしまっているのです。ジャイアンがいい奴っぷりを初めて発揮した長編は『大長編ドラえもん (Vol.3) のび太の大魔境 (てんとう虫コミックス)』ですが、ジャイアンは物語の前半で冒険を楽しむためにドラえもんに道具を捨てるように指示して、そのせいでピンチに陥ります。そのことに責任を感じて俠気をみせるのです。この変化にこそ、人は惹きつけられるので、最初からいい奴であったら、キャラクターそのものが別者にみえてしまいます。

【のび太くんの本当の魅力】
『ドラえもん』にはいくつか名作として知られる話がありますが、その一つに「結婚前夜」というものがあります。映画にもなっています(映画ドラえもん のび太の結婚前夜〔新装完全版〕 おばあちゃんの思い出 (てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん Vol.))。

じぶんの結婚式をみようと未来へ行ったのび太くんとドラえもん。
しずかちゃんは、結婚式の前夜に不安を抱きます。
そのとき、しずかちゃんのパパがのび太くんを評した言葉は、のび太というキャラクターの魅力の本質だと思います。

のび太くんを信じなさい。
のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ。
あの青年は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。
それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね。
彼なら、まちがいなくきみをしあわせにしてくれるとぼくは信じているよ

勉強ができなくても、失敗ばかりでもかまわないが、人間として忘れてはいけないことがある。
そんなことを教えてくれるキャラクターだと思います。

【分類】
通常アニメ版
キャラクターロール:主人公
キャラクタータイプ:欲望ストレート
キャラクターアーク:ポジティブ~落下(変化なし)
ストーリータイプ:魔法のランプ
プロットタイプ:魔法のランプの失敗型

長編アニメ版
キャラクターロール:主人公
キャラクタータイプ:信念のヒーロー
キャラクターアーク:フラットなアーク
ストーリータイプ:(作品による)
プロットタイプ:(作品による)

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緋片イルカ 2019/10/14

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