映画『アノマリサ』(三幕構成分析#3)

基本情報:
原題『Anomalisa』、2015年アメリカ制作。人形によるストップモーションアニメ映画。監督・脚本はチャーリー・カウフマン『エターナル・サンシャイン』マルコヴィッチの穴』など)。第88回アカデミー賞長編アニメーション章ノミネート。アメリカでは成人指定。制作費はクラウドファンディングで集められたらしい。日本では劇場未公開、DVD発売のみ(Amazonプライムで見れました)。

※以下、ネタバレ含みます。

ログライン
孤独を感じる中年男性が、出張先でリサ(アノマリサ)と一夜を共にして結婚まで決意するが、むなしくなって家に帰る。
ストーリータイプとしては「中年の岐路」。ストーリー上では主人公の孤独はただの中年の危機と捉えることもできるし、抗うつ剤を飲んでいることからうつ症状と捉えることもできるが、登場人物を人形にすることで、テーマを演出するフックとなっている。

ビート分析:
Image1「オープニングイメージ」:タイトルに合わせて耳障りな男性の会話。この映画では主人公とリサ以外の声は、老若男女すべてTom Noonanという役者が演じている。そのトムによる話し声であり、主人公マイケルにとってはこの声が孤独の象徴でもあり音によるイメージとなっている。

CC「主人公のセットアップ」:飛行機の中で抗うつ剤を飲む。別れた女性を想起。しきりに目頭を抑えたり、抑鬱状態であることがわかる。話相手がいない。

Catalyst「カタリスト」:「昔の恋人ベラに電話(20分)」。それまでのシーンは人形アニメの精巧さに目を奪われるがセットアップばかりでストーリー上は進行していない。カタリストが20分というのはかなり遅いので、ここまでで眠くなってしまう観客もいるかもしれない。脚本家はここをプロットポイント1と想定したのかもしれないが、非日常感としては弱く全体からみればカタリストにしか感じられない。ベラは登場させず「リサの声を聞く」から「声の主を探すが見つからない」という展開もありえたと思う。ベラはこの後、ストーリー上にも一切登場しないので主人公の過去を紹介する役割にしかなっていない。

Debate「ディベート」:「バーでベラと再会と喧嘩」。この後、アダルトショップへ行って日本人形を買うという重要なフリとなるシーンがある。PP1前にフリを入れるのは脚本テクニックとして高等。シャワーでは鼻唄を歌ってご機嫌になっているのは、初見ではわからないが日本人形を自慰行為に使ったフリ(意味は後でわかるがご丁寧にももたろうの歌をアレンジしたBGMまで流れている)。

Death「デス」:シャワーの後、鏡を見ると「自分の顔が剥がれそうになる」。

PP1:「プロットポイント1(PP1)」「リサの声(初めてのトムではない声)を聞く」(33分)。すぐに部屋を出てリサを見つけてバーへ誘う。時間は全体の37%で一般的なPP1としてはかなり遅いタイミングだが、リサと出会ってからはホテルで一晩過ごすだけなので前倒しした場合、アクト2がつまらなくなる可能性もある。変則的な構成でストーリー上の非日常に入る地点を映画上ではピンチ1の37%の位置に持ってきているものがあるが、そのパターンといえる。

Battle「バトル」~MP「ミッドポイント」:バーで飲んでから、リサだけを部屋へ誘う。キスをする。歌を聞く。という段階がバトルとして機能している。その歌を聞いて「涙を流す主人公マイケル」(50分)がミッドポイント(中年の危機をテーマととるならセックスシーンになるが)。サブプロットらしいものはないのでPinch1「ピンチ1」はないといえる。これはストーリー上のビートとして捉えた場合で、映画分析上なら次のような解釈もできる。
PP1:「昔の恋人ベラ」(カタリストとして機能しているものはないことになる。無理やり部屋で一人になった地点などとも言えるがビートの意義からして機能していない)
ピンチ1:「シャワーでの主人公の鼻唄」
MP:「リサを部屋に入れる」
ピンチ2:「リサの歌」
主人公はベラを部屋に誘おうとして断られているので、それを主人公の願望として捉えるなら、リサを部屋に入れたことが願望の達成地点と言える。リサはサブキャラクターとなり、主人公の孤独感こそがメインテーマであるような構成となっている。ただ、分析視点からのこじつけのようにも感じる。ビートの機能はストーリーの変化が起きているかと、観客が受ける印象が重要なので、ピンチはないとしておく。
セックスシーン中に「アノマリサ(他と違うリサ。anomalyとrisaをくっつけた造語)」というタイトルにもなっている印象的な言葉でてくるのは、前回のがっつり分析『君の名前で僕を呼んで』と同じで、一つのテクニックとして盗める。

Fall start「フォール」:翌朝。目が覚める。ここも時間配分で言えば、ディフィートのタイミングだが支配人による不思議な(いかにもチャーリー・カウフマン作品らしい)シーンが入る。シーンとしてフックはあるが安易でストーリー上は進行しない。好き嫌いの分かれるシーン。

PP2(AisL)「オールイズロスト or プロットポイント2」:「顔が仮面のように外れる」(67分)。ここで時間配分74%でアクト2の終わりとしてはセオリー通りに戻っている。ホテルに到着して、ホテルから出る。ホテルという場所が非日常だったともいえる。

BB(TP2)「ターニングポイント2」:2度目の目覚めから、リサに求婚。ほんとうに離婚するのか?やっていけるのか?というアクト3の「ビッグバトル」:が始まる。すぐにリサの声はトムの声と重なっていく。講演では錯乱していて意味はとりづらいが、「話す相手がいない」「涙が出ない」といったキーワードは拾える。そしてマイケルは家に帰る。離婚の話を「電話で言う」「直接した方がいいか」という言い方があったので、妻は離婚の話をされているのかどうか観客にはわからないが、それが引っ張る効果にもなっている。また日本人形に精液がついているというところ、人形の歌うももたろうの歌がトムの声でないことから、リサ=日本人形だったのでは?というツイスト。サプライズパーティーにきた友人を認識できないところからマイケルが精神病だということもわかり、リサも実在することもわかる(Big Finish)。

image2「ファイナルイメージ」ラストのリサのモノローグはオープニングとの対比では明るいエンディングに見える。マイケル自身は変わってないが希望は残す形の終わらせ方。ちなみに「アノマリサを和英辞典でひいたら『goddess of heaven』という意味があった」というのはアマテラスのことを言っているという説が有力らしいが、日本人にとってはしらけるところなのは否めない。ももたろう、日本人形の使い方とも合わせて、一昔前のアメリカ映画で日本人といえば七三分けのサラリーマンとか、観光地でパシャパシャと記念写真を撮るキャラとしてばかり出てきたのを思い出す。

分析にご興味がある方は、ぜひビート分析してみてください。
ご意見、ご質問などありましたら何でもコメント欄にどうぞ。

また三幕分析に基づく「イルカとウマの読書会」も定期的に開催しています。詳細はこちらから。ご興味ある方は、ご参加お待ちしております。

(緋片イルカ2019/04/13)


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構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」

三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)

キャラクター論についてはこちら→キャラクター分析1「アンパンマン」

文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」

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