「オープニングイメージ」「ファイナルイメージ」の活用ヒント2(中級編28)

三幕構成 中級編(まえおき)

三幕構成の中級編と称して、より深い物語論を解説しています。

中級編の記事ではビートを含む用語の定義や、構成の基本、キャラクターに対する基本を理解していることを前提としています。しかし、応用にいたっては基本の定義とは変わることもあります。基本はあくまで「初心者が基本を掴むための説明」であって、応用では例外や、より深い概念を扱うので、初級での言葉の意味とは矛盾することもでてきます。

武道などで「守」「破」「離」という考え方があります。初心者は基本のルールを「守る」こと。基本を体得した中級者はときにルールを「破って」よい。上級者は免許皆伝してルールを「離れて」独自の流派をつくっていく。中級編は三幕構成の「破」にあたります。

以上を、ふまえた上で記事をお読み下さい。(参考記事:「三幕構成」初級・中級・上級について

超初心者の方は、初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」から、ある程度の知識がある方は三幕構成の作り方シリーズか、ログラインを考えるシリーズからお読みください。

シンデレラにおけるイメージアイテム

現在「ライターズルーム脚本講習」での指導を受けて、「オープニングイメージ」「ファイナルイメージ」についてのヒントを記事にしてみます。それぞれのビートの意義などは、初級編の記事でご理解ください。

参考:
プロットを考える4「オープニングイメージ」
プロットを考える20「ファイナルイメージ」

また、似たような記事を過去に書いていたので「2」としました。
参考:「オープニングイメージ」「ファイナルイメージ」の活用ヒント(中級編23)

「脚本講習」ではシンデレラの脚色にとりくんでもらっています。

昔話設定で、誰もが聞いたことがあるシンデレラのなかで魅力を引き出すという練習のためSFとか現代日本設定とか、設定の奇抜さでオリジナリティを狙うのはなしとしています。

そうすると、作品は決まっているのでイメージアイテムはおおおよは決まってくるとも言えます。

以下に、いくつかの具体例とともにポイントをあげてみます。

※OP:「オープニングイメージ」、END:「ファイナルイメージ」のこと

場所・環境系

OP:荒んだ家
END:お城

OP:破れた窓
END:綺麗なステンドグラスの窓

OP:ベッドや破れた寝具
END:温かそうな王女のベッド

OP:粗末な食事
END:豪華な食事

シンデレラにおける変化の一つは「貧しさ」→「豊かさ」です。

これを象徴するものは建物や調度品に現れますので、わかりやすいイメージアイテムとなります。

ただし、ハッピエーンド=「金銭的な豊かさ」というメッセージになりかねず、現代では「経済力」=ハッピーという価値観は観客に受け入れられにくい(理解はされるが共感されにくい)ので注意が必要です。

たとえば、「粗末な食事」を空腹感とつなげるように描写すれば、テーマは「貧乏」ではなく「飢え」に見えます。

「豪華な食事」も街中の人に分け与えるような描写であれば、シンデレラによって街中が救われたように見えます。

描写には作者の「視点」が無意識的に現れます。ぬるい人生観で物語を描くと、間違ったメッセージを送ることになるので、テーマは真摯に考えましょう。

小道具系

OP:破れたようなぼろい靴
END:結婚式での靴

OP:召使い服
END:ウェディングドレス

OP:古い指輪
END:結婚指輪

オープニングイメージで使ったものは、大切な小道具として主人公に持たせておけば象徴的なアイテムとして利用もできます。

シンデレラといえば原作に象徴的なアイテムがあります。

もちろん「ガラスの靴」「魔法のドレス」です。

これらに、どういうテーマを意味づけするかが「オープニングイメージ」「ファイナルイメージ」というビートの機能とも繋がります。

ぼろい靴→ガラスの靴→結婚式での靴という変化は、シンデレラ自身の変化の象徴です。

ストーリーの意味づけがなされていないと「経済的な豊かさ」の変化に見えてしまいますが、たとえば、ぼろい靴でサイズが合っていないため「いつも脱げてしまう」と描写しておき、それをシンデレラは「自分がドジなせい(短所)」だと思い込んでいる。

それを受けて「ファイナルイメージ」では、結婚式のシーンで靴が脱げてしまう描写を入れる。

「やっぱり私はドジ」だというシンデレラを、王子様が支えて「でも、きみがガラスの靴を落としてくれたら、こうして再会できたんだ」と言う。

こんな描き方をすれば「短所」が「長所」に変わっているように見えます(ここで「短所というものは場合によっては長所になるのだよ」なんて説明セリフが入れたら原稿を破り捨てますけどね)。

同様に、服装でも、アクト2での「魔法のドレス」を歴て、ウェディングドレスへと、キャラクターアークに合わせた描写が狙っていけます。

シンデレラはこの2つ自体がとても魅力的なアイテムなので、無理してこれ以外のものをつけ加える必要はないのですが、発想法のヒントとして「指輪」を示しました。

これは、物語のエンディングを考えたときに「王子様と結婚」→「結婚といえば?」→「結婚指輪」と連想していき、ラストから逆算して、変化前にあたる「指輪」を持たせる発想です。

何度も言いますが、ただの「古い指輪」「安い指輪」という安直な使い方ではテーマになりません。

「母親の形見」で、汚れている指輪(傷だらけとかでも)だけど大切にしているもの。

それを王子様が磨き直して、結婚指輪としてくれたとなれば、どうでしょう? いろいろな意味づけができそうです。

ただし、こちらをイメージに使うなら「魔法のドレス」や「ガラスの靴」の印象を弱める必要もあるかもしれません。

あれも、これも象徴だと、ブレてインパクトが弱くなります(これはト書きで余計な説明を入れるとブレるのにつながります)。

想い出のアイテム系

OP:両親との家族写真
END:王子様との結婚写真(新しい家族)

「形見の指輪」と同じような扱いではありますが、象徴ではなく明確に感情を示すような場合、写真のような露骨なアイテムも使えます。

わかりやすい反面、クリシェになりやすいとも言えます。

初心者はこれぐらいのわかりやすさから練習してもいいかもしれません。

「形見の指輪」では、それが「形見の指輪であること」と「そこに対するシンデレラの個人的な感情」をしっかりとセットアップする必要があります。

キャラクターのオリジナリティを出す機会があるとも言えます。

「写真」を眺めて泣いているシーンなどは、それ以上の説明がいらないほど明確ですが、感情としては安直な描写で、個性や心の機微までは伝わりません。

サブキャラクターなどに、あえてわかりやすいアイテムを使うことで短時間で個性を出すというテクニックもありますが、下手な人がやると長くなって邪魔なシーンになります。

クリシェやステレオタイプにも、使い方はあるのですが、主人公がそうなってはいけません。

その違いを理解するためにも、初心者は、最初は安易なアイテムを使って練習していくのもよいかもしれません。

この系統のアイテムには「手紙」「日記」「声(の録音媒体)」などもありますが、これらはモノローグが絡みやすいので、さらに扱いに注意が必要です。
参考:脚本作法15:モノローグの扱い

自然系

OP:枯れた植木鉢
END:花が咲く

OP:三日月
END:満月

OP:冬
END:春

OP:ケガをした小鳥
END:飛べるようになった小鳥

自然界の現象は、自然に変化があり、人間を矮小化する意味づけがしやすいアイテムですが、クリシェの代名詞でもあります。

花が裂く、散る、枯れるなどは、誰でも思い付き、わかりやすく、綺麗でもありますが、ストーリーの意味づけのないアイテムは、脚本では意味をなしません。

シンデレラに「花」や「月」のイメージが合うか?

あるいは白雪姫や眠れる森の美女ならどうか?

「御姫様」にきれいなアイテムは似合うかもしれませんが、それだけではビートとしては機能しません。

むしろ「まるで似合わないもの」をイメージとして使えないか?という発想の方がオリジナリティが出るかもしれません。

ドレスや靴と同じように、物語の中盤でも意味づけをして、そのアイテムなしではこの主人公は成立しないというところまで、しっかりと使いこみましょう。

ビートをいつ入れる?

「オープニングイメージ」は完成脚本ではトップシーン近くにあるので、これを決めないと執筆を始められないような気がしてしまうかもしれません。

その発想に陥ると、なかなか書き出せなくなってしまう危険性があります。

「オープニングイメージ」と「ファイナルイメージ」は対になるようなものなので、トップシーンからラストまでのイメージを固めないといけなくなってしまいます。

もちろん、そういう全体イメージ(ログラインのイメージ版のような)を通しておくことは書きやすさにつながるので、考えて損はありません。

いま、自分が、考えすぎなのか?

それとも考えが足りていないのか?

考えてばかりで、いつまでも書き始めないようでは時間ばかりがムダに過ぎていきますが、書こうとして何も浮かばないようなときは準備不足かもしれません。

そういった判断は経験や、作者のスタイルによるので、一概に、何がいいとは言えませんが、初稿完成までのトータル時間で考えるようにすると良いでしょう。

個人的な意見ですが、初心者ほど、初稿で完成度を高めようと構えがちな気がします。

あるいは無意識に「直しを面倒くさがっている」と、そういう態度につながるのかもしれません。

「どうせ、直すんだ」という心構えは、スピードを上げる意味でも、完成度を高める意味でも必要です。

分析力を磨いている人であれば、直すときにこそ完成度が高まります。

とくに「オープニングイメージ」「ファイナルイメージ」というビートは、最初と最後なので、後からでも加えやすいビートです。

それに、ただ、つけ加えるだけではビートとして機能しませんから、中盤でも意味づけられるように、途中のシーンも直していくことになるでしょう。

そんなの大変? そう思うのは「直しを面倒くさがっている」人の考え方です。

物語をつくるのは、面倒で大変なことです。こだわれない作家の手抜きの物語に感動する人などいません(ビートや技術を学ぶ前に「作家としての心構え」を身につける必要がある人もいるかもしれません)。

もう一つのヒントとして、物語の中盤を書いている最中にイメージアイテムが見つかることもあります。

魅力的なシーンが書けたとき、そこで使われたアイテムをトップとラストにもつけ加えるという直し方もあるのです。

イメージアイテムは頭で考えて、ポンと簡単に決まるものではありません。

ならば、ポンと浮かんだものを、仮のイメージアイテムとして書いてみるのも、とても有効です。

直しで、しっかりと意味づけるようキャラクターアークを修正しなければ機能しないということは「初稿では機能していなくてもいい」ともいえるのです。

緋片イルカ 2023.8.18

※なお、脚本講習の参加者はこの記事で例をあげているイメージアイテムを使ってもらって一向に構いません。シンデレラという題材から導き出せるアイテムというのも限界があるし、今回の脚色で求めているのは奇抜さではなく、しっかりとした意味づけを行う基本的なテクニックの習得ですので。もちろん、オリジナリティを出せる人がいれば、それは読ませてもらえるのを楽しみにしております。

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